第10話 ガーゴイル
「かりんの言う通り、見張っておいて正解だったな。ちょっと姿を隠してやったら動き出した」
そんな風に俺が言うと、かりんの横にいる璃紗が、
「え? 姿を隠す? 隠形ですか?」
という、もっともな疑問を投げかけてきた。
「まあそんな感じだ。一旦外へ出るフリをして、隠れて戻ってきたらこの仮面が動き出してな。で、それに呼応するかのように、こいつら――人形たちが出てきたんだ」
「この仮面と操り人形……マスターが先日買った物ですね。どこで買った物なのかまでは分かりませんが」
俺の説明に対して、そんな風に言ってくる璃紗。
先日……か。
今日届いた物とは別という事か。まあそもそも置物だって言ってたしな。
と、そんな風に考えながら、俺は璃紗に問いかける。
「ちなみに今日搬入された置物とやらは、もうあるのか?」
璃紗は、
「あ、はい。えーっと……」
と言いながら周囲を見回した後、
「あっ! あれですね!」
と、指さしたのは翼を持った小型の悪魔のような石像だった。
ガーゴイルとかインプとかに似ているな……と思っていると、
「ガーゴイル……って、マスターが言ってたけど、ガーゴイルってこんな感じなのね」
なんて事をかりんが言ってきた。
ああ、この世界にもガーゴイルって存在していたのか。
と思っていると、
「そうですね。もっとも、数あるガーゴイルのひとつという感じですが」
などと言う璃紗。
……この世界にはガーゴイルが複数種存在するのか……?
と、そんな事を思いながら、魔力感知を行ってみると、案の定なにかの魔法が付与されていた。
そりゃまあガーゴイルって言ったら、向こうの世界では『動く石像』の代名詞だし、なにかの魔法が付与されているのは当然か。
まあ、こっちの世界のガーゴイルは動かないっぽいが。
……いや、そうか。だから複数種存在するのか。納得した。
自己解決した所で、棚の所でただのぬいぐるみのフリをしているブルルンを介して、魔法を詳しく調べてみる。
すると、そのガーゴイルに付与されていた魔法は、『なんらかの封じられている物』を解除する波動を周囲に放射するものだと判明した。
というわけでその事をかりんと璃紗に伝えると、ふたりはそれぞれ、
「それ、これが『元凶』って事よね?」
「ですね。これが運び込まれた事で仮面と人形が動き出した……と」
と言ってきた。
「ま、そうだな。もっとも……ここまであからさまだと、逆にそう思わせようとしているんじゃないか……と、そう疑いたくなるくらいだ」
「さすがにそれはない……と言いたいけれど、このお店に『結界』が展開されている事に気づいていたのなら、そういう偽装をしてくる可能性もゼロではないわね」
かりんは俺にそう返すと、うーん……と唸って考え込む。
「どうなんでしょうね? 私はここに結界が張られているという事に気づきませんでしたが、割と気づくようなものなのですか?」
璃紗がそんな疑問を口にしてくる。
それに関しては――
「いえ、それなりに『そういった力』を感知出来るような人間でも、そうそうこれを感知出来たりはしないわ。一応お店だから、お客さんに感じ取られてしまうのは避けたかったし。ほら、そういうのを感じとれてしまう人だと、落ち着かないでしょ?」
――というかりんの考えから、『それなり』どころか、意図的に見破ろうとしても見破れないくらい強固な隠蔽が施されていたりする。
「え? あ、はい、えっと? それはまあ……? そう……かもしれませんね?」
と、疑問符の多い返答をしてくる璃紗。
そこまでしなくても良かったのでは? という表情をしているな。うん。
「ま、その辺りはこれを買った『店』を調べてみれば分かる話だな。マスターに聞いてみるとするか」
「そうね。というか……ここまでして、何を狙っていたのかしら?」
「あ、そうか。その話してなかったな。どうやらこいつを狙っていたみたいなんだ」
首を傾げるかりんに対し、俺はそう告げながら例の赤黒い石をふたりに見せる。
「先程からまた感じるようになっていた力の源はこれでしたか。これは一体……?」
「うーん……。例の欠片……っぽいけれど、あれよりも少し黒ずんでいるわね?」
そんな風に言ってくるふたりに、
「ああ。俺もこれが何なのかはさっぱり分からん。後で詳しく調べてみないと……って感じだ」
と、そう答える。
「それも『お店を調べれば』分かるんじゃないかしらね?」
かりんが、『お店を調べれば』の部分を強調しながらそう言ってくる。
それに対して俺は、
「そうだといいんだが……。――ま、とりあえずマスターの所に行くとしよう」
と言って、ふたりと共にマスターの所へと向かうのだった。
久しぶりの勘違い透真です(何)
とまあそんなこんなでまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、11月18日(土)を予定しています!




