第5話 呪具と料理
「周囲の熱を少し奪うって事は……温度が下がって涼しくなる?」
首を傾げながらそんな事を呟く弥衣に、紡が頷きながら返事をする。
「ですね。この妙な涼しさは、それによるものだと考えて良さそうです」
「……たしかにしょぼい。でも、どうしてそんなものが……?」
今度はミイが首を傾げてそんな疑問を口にした。
それに対してかりんが、
「さあ……? 昔の呪法の使い手か何かが、夏場を凌ぐ為とかそんな理由で作ったんじゃないかしらね?」
と言って肩をすくめてみせた。
「なるほど、扇風機とかエアコンとかの代わりというわけだね」
「昔は今よりも気温が全体的に低かったとか言われちゃいるが、暑いもんは暑いから分からんではねぇが、なんともな代物だな」
紘都と雅樹がそんな風に言いながら呪具の樽――樽の形をした呪具というべきか? を眺める。
「ま、なんにせよこいつは特に害があるわけでもなかったからな。とりあえず放置している感じだ」
「えっと……『こいつは』ですか? それはつまり……『害のある代物』もあった、と?」
俺の発言に対し、舞奈が顎に手を当てながらそう問いかけてくる。
「ええ、あったわ。まあ、幸いというべきなのかしらね? 命に関わるような物は今までほとんどなかったけれど」
俺の代わりにそう答えたかりんに対し、舞奈が呆れた表情で呟く。
「ほとんどって事は少しはあったんですね……」
「でも、一体どうしてそのような代物がここにあるんですか?」
舞奈に代わってそう問いかけてくる紡に対し、
「マスターがこのホーンテッドカフェに合いそうな物とか言って、どこからともなく買ってくるか貰ってくるんだよ」
そう言って肩をすくめてみせる俺。
そこへかりんが、
「どうしてああもピンポイントで引き当てるのかしらね……。何かが『視えて』いるんじゃないか……と、そう思わずにはいられないわ」
などと、額を抑えながら深いため息と共に言葉を紡ぎ、首を横に振った。
まあたしかに、あのマスターなら『ない』とは言い切れないのが恐ろしい所だな。
「って、それはそれとして、何か頼むなら頼んでしまいましょ」
「あ、そうだね。えーっと……って、何これ……」
かりんに促された咲彩が、メニューの記されているタブレットを操作しながら、そんな事を呟くように言う。
「なになに……ブラックバードフライ? リザードテイルミート? ヴァンパイアレッドドリンク? どれもこれも良く分からん名称だな……」
横から覗き込んだ雅樹がそう口にする。
まあそうだろうなぁ……と思いながら、
「それっぽい名前……というかアレな名前が付いてはいるが、あくまでも名前だけであって、実際には普通の食べ物や飲み物だからそこは心配しなくてもいいぞ。写真を見れば基本的にどんなものか分かるはずだ」
と、告げる俺。
それに対し、かりんが引き継ぐ形で補足の言葉を紡ぐ。
「一応、至って普通な名前のものも、いくつかあるにはあるんだけど……ね」
「たしかにあるにはあるが、この意味不明な名称の料理の方が圧倒的に多い……って感じだからなぁ。もっとも、名称に反して料理自体はどれも旨いんだけどな」
そう言いながら、実際に向こうの世界だったら、こういう感じの名称を持った料理って結構あるんだよなぁ。しかも使われている食材も、実際にそんな感じの獣や魔物だったりするし。
なんて事を思いつつ、俺はタブレットに映されている料理の画像を眺める。
「とりあえず、ブラックバードフライって、これ……ブラックペッパーを使った骨なしフライドチキンだよね」
そんな風に咲彩が言うと、それに続くようにして、
「リザードテイルの方は……なんだ? 太いソーセージ……か?」
と、雅樹も言う。
ある意味、料理に慣れているふたりだけあって、写真を見ただけでわかるようだ。
「だがまあ、たしかにどっちも旨そうだな」
「そうだね。他のも良さそうだし」
雅樹に対して頷きながらそう口にする紘都。
「これ、もうなんとなくでいいから、色々と注文してみちゃえば良くないー?」
「うん、それでいいと思う……」
セラに対してミイが肯定の言葉を発すると、弥衣が無言で首を縦に振ってみせた。
どうやら、同意らしい。
「まあ、値段的にはどれも安い方だからそれでもいいと思うけど――」
そんな風にかりんが言うと、
「それじゃあ、色々といっちゃおう!」
と言って、咲彩が片っ端からタップしていく。
そして、それを皮切りに他の皆も咲彩に続いてしまい、
「――結構な量だから、頼みすぎると大変よ……?」
という、かりんの続きの言葉は聞こえていなかったのだった。
思ったよりも会話が長くなってしまった感があります……
ま、まあ、そんな所でまた次回!
次の更新も予定通りとなりまして、11月1日(水)を予定しています。




