第42話 電光石火の撃滅者たち
「――『魔』をここに……! 黒き深淵より這い出るがよい……!」
蒼生博士――そう呼んでいいのかは怪しい所だが、他に呼び方も思いつかないので、とりあえずそう呼ぶ――がそんな事を言い放った瞬間、フロアハッチ周辺の床が弾け飛び、黒い水飛沫が上がる。
「ヴヲヲヲヲヲヲヲヲッ!!」
「ルロロロロロロロロッ!!」
「ウルアアアアアアアッ!!」
などという奇怪な咆哮が立て続けに響き、蒼生博士と同じように首から上がかろうじて人間ではあるもののその下が完全に異形と化している、そんな存在が次々に姿を現した。とりあえず、今出てきたのは5体だが、この感じだとまだ出てきそうだな……
「もしかして、水中に大量に沈んでいた棺って……!?」
そんな言葉を口にしたかりんに対し、
「ああ、こいつらが封じられていたと考えるのが妥当だろうな」
と、そう返事をする俺。
鎖を断ち切っても無意味だった……のか?
だとしたら、あの鎖はなんの為のものだったんだ?
その事が気にはなるが、今はそれを考えている余裕はなさそうだ。
ここは手前の部屋よりはやや広いものの、そこまで広大というわけではない。
その上、異形化した奴らは床を破壊して出現してきている。
あまり増えられると動きづらくなるというものだ。
予想通りというか、既に追加で1体出てきてしまったしな。
というわけで――
「――ブラドゥルークワイル!」
即座に青く輝く雷光を下――黒い水へ向かって放つ。
「ゴガアアアアアアアアッ!?!?」
「グゲガガガガガガガァァ!?!?」
「ウギギィィィィィィィィ!?!?」
バチバチというスパーク音と共にそんな苦悶の叫びが響き渡り、
「な……に……!?」
という驚愕の表情を見せる蒼生博士。
「これ以上、増えられると面倒だからな。先に潰させて貰った」
俺がそんな風に蒼生博士に向かってそう告げると、
「増援潰し、エグい。でも、効果は抜群」
なんて事を言ってくる弥衣。
「あれですね。増援が出て来るのをわざわざ待つ必要はないという話ですね」
「先手必勝って奴だね! よ……っと!」
うんうんと頷きながら言う紡の言葉に続くようにして咲彩がそう口にしつつ、目の前の首から下が蛇のようになっている――ただし途中から3つに分かれていたりする――異形を、光の剣で横一文字に斬り裂いた。
そしてそこへ更に雅樹が、
「ああ。つーわけで、こいつも食らっときな!」
と言いながら咲彩の後ろから飛び上がり、火炎を纏った足で踵落としを叩き込む。
縦に一直線に炎の軌跡が生じ、光と炎の十文字を刻まれる形となった異形は、断末魔の叫びと共に霧散していった。
「閃焔クロスブレイク! ……なんちゃって」
「なんで途中から英語になんのか良くわからねぇが、まあバッチリ連携技が決まったな」
などと言いながらハイタッチをする咲彩と雅樹。
……正直、何故わざわざハイタッチをしているのかはさっぱりだが、まあ敢えて突っ込まないでおくとしよう。うん。
なんて事を思っていると、今度は凄まじいまでの銃声が連続して響き渡る。
そのけたたましい音のした方へと顔を向けてみると、それが弥衣が自身の周囲に出現させた多数の形代から一斉に放たれた銃撃によるものである事が一目瞭然だった。
その先にいた首から下がカラスの翼を幾重にも重ねたかのような形状になっている異形が、文字通り蜂の巣にされ、「グゲェェェェェッ!?」という苦悶の叫びを上げる。
そこへ更に異形の下へと潜り込んだギネヴィアが、一気に急上昇しながら異形を剣で引き裂く。
そしてその一撃がトドメとなり、異形はあっという間に霧散した。
一瞬にして増援と既に出現していた内の2体を倒され、残る4体の『魔』も、目に見えて混乱しているのが分かった。
更に言えば、その内の1体も霊体とかりんが攻撃を浴び、もう消える寸前だったりする。
「よし、残りもとっとと倒してしまうとしよう」
そう告げた俺に対し、
「倒しておきながらあれだけど……一方的な殲滅になっているわねぇ」
なんて事をトドメを刺しながら返してくるかりん。
その言葉を聞きながら、向こうの世界では先手を取って一気に攻撃を仕掛けるのが基本だったからなぁ……。そうしないと味方に被害が出るし。
だがまあ……たしかにこっちの世界ではそこまでやる必要もないし、一気にやりすぎたかもしれないな。
と、そんな風にちょっとだけ思う俺だった。
サブタイトルはまさに透真たちの事です(電光石火すぎる気がしますが……)
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も平時通りの間隔となりまして、9月19日(火)を予定しています!




