第41話 蒼生博士と呼ばれしモノ
「蒼生……博士?」
目の前の青白い魔道士を見た綾乃が、驚きの表情でそう呟く。
「ソウキハカセ? ここでの実験を指揮していた人物か何かか?」
「違う……わ。蒼生博士は、私たちよりも前にここで人造の妖魔の研究と実験をしていた人……よ」
「ああなるほど、ここに研究の記録を遺していた学者の方か」
「ええ、そう……よ」
綾乃は俺に対し、頷きながら返事をすると、青白い魔道士――蒼生博士へと改めて視線を向け、
「……研究を放棄して去ったのかと思っていたけれど……どうやら違っていたみたい……ね」
と、そんな風に呟くように言った。
「ふぅん、なるほどね……。だとすると、さしずめ研究の途中で『その身ごと』ここに封印された……といった所かしらね?」
かりんがそう言いながら蒼生博士へと顔を向ける。
「我が研究は……! 実験は……! ニ度も愚か者に……! 愚か者どもに……! 妨害され……! 邪魔され……! 閉ざされ……! 封じられ……! 完成に至らなかった……! しかし……! 今再び……! 我は蘇りたり……! 三度推し進めようぞ……! 人の手による妖魔の創造を……! 造魔の生成を……!」
唐突に口を開いたかと思うと、妙に芝居がかった口調でそんな事を言ってくる蒼生博士。
「うおっ!? こいつ、まともに喋れるのか!」
「まともかどうかは怪しいけどね……」
驚きの声を発した雅樹に、咲彩が人差し指で頬を掻きながらそう返す。
「我は我なり……! 我が自我は失われておらぬ……! 我は進化した……! 造魔を繰る存在に……! 造魔の王たる存在に……!」
蒼生博士がそんな言葉を返すと、
「王とはまた大きく出たものだ」
「うん、まったく」
なんて事を口にするギネヴィアと弥衣。
「王というのはともかく、今、造魔を繰ると言いました。つまり――」
「――こいつが元凶だって事だな」
紡の言葉を引き継ぐようにしてそんな風に言う俺。
「なら、これを倒せば……記者の妹も、操られる事が……なくなる?」
「ええ、それは間違いないわね。でも、あの棺に込められていた邪な霊力が元凶である事はわかっていたけれど、まさかここまで強い自我を持った奴が封じられていただなんてね」
かりんが霊体に対して頷きつつそんな事を言って、肩をすくめて見せる。
そのふたりの言葉を聞きながら、
「うーん……。自我がある……のか? どうにも不自然な感じがするが……」
と、呟くように言う俺。
たしかに一見まともに感じられるが……どこかおかしいんだよなぁ。
などと思っていると、かりんと霊体に対し、
「愚かなり……! 我を封じんとせし者……! 導きを抗拒せし者……!」
なんて事を怒りの口調で言う蒼生博士。
そしてそのまま綾乃とミイ――正確にはミイの持つ人形――へと交互に視線を向け、
「そこの者どもと同じく我を理解せぬか……! 研究を理解せぬか……!」
と、そんな風に言葉を続けた。
「導きを抗拒せし者……? まさか、私たちに実験をさせたのは……あなた?」
「その通りだ……。我が肉体は進化に成功した……。されど我は封じられ動けぬ……。そこへ良い駒が多数現れた……! 利用せぬ手などあろうか……!」
綾乃の問いかけに対し、蒼生博士がそんな事を言う。
「駒……ね。なんとも外道らしい思考って感じだわ」
かりんがやれやれと言わんばかりの表情でそう口にすると、
「外道……? 人には無き力を宿す『魔』への進化……! それは素晴らしきものなり……! 実験体となった者は、自我なくとも『魔』へと転じる……! それは素晴らしきものなり……!」
なんて言葉を返す蒼生博士。
それを聞いていた雅樹、咲彩、弥衣の3人が、
「……透真の言う通り、まともじゃない気がすんな」
「だよねぇ、やっぱり」
「うん、言ってる事が意味不明」
と、そんな事を言った。
「……たしかに改めて良く話を聞いていると、自我を持っていると言っている割には、発する言葉の内容が色々とおかしいわね」
「もしかして、単に自我を保っていると思い込んでいるだけなんじゃないか?」
かりんまで同意の言葉を口にした所で、俺はふと思った事を口にする。
「……既に『何か』に乗っ取られているとか、そんな感じですか?」
「その可能性もあるが……どちらかと言うと、同化して意識――自我が混ざり合っているんじゃないか?」
紡の推測に対し、俺は自身の推測を話す。
それに対して、
「ふぅむ、今しがた奴自身が言っていた『魔』と混ざり始めているのやもしれぬな」
という推測を口にするギネヴィア。
なるほど……。たしかに『魔』への進化だの『魔』へと転じるだのと言っていたな。
と、そう思った所で、
「我を抗拒するか……! 抗拒は拒絶せよ……! 我は拒絶せし者どもに我が正しきを解くのみ……! 造魔の王たる我自らが『魔』を与えん……! 享受せよ……! 受容せよ……! 容認せよ……!」
そんな事を言い放ち、両手を大きく左右に広げる蒼生博士。
そして、それと同時にローブに隠されていた身体が――全身が既に黒い触手のようなものへと変貌しているその姿が顕になった。
更に良く見てみると、黒い触手なようなものに守られるかのようにして、心臓部付近に赤く輝く結晶のようなものが見え隠れしていた。
この肉体の変異度合い……何かに――いや、『魔』にかなり侵蝕されているな。
それに、あの赤いのは……まさか、破壊の化身の――魂の欠片……か?
一見、少しは対話が出来そうに見えて、実際には全く対話が成立しないという……
しかし、なにげにちょっと重要そうな事を口走っていたりするという……そんな存在です。
言い回しが大分独特なのも特徴でしょうか(何)
とまあそんな所でまた次回!
次の更新も平時通りの間隔となりまして、9月16日(土)を予定しています!




