第37話 融合体と儀式
雅樹の方へと顔を向けてみると、怨霊の融合体が灰になりながら消滅していく所だった。
そして、こっちも復活してくる気配はない。
「そっちは凍りつかせて粉砕か。それでも分裂も復活もしねぇんだな」
雅樹がそんな言葉を投げかけてくる。どうやら倒す所を見ていたらしい。
「そうみたいだ。炎で焼き払った方も問題なさそうだな」
「ああ。完全に消滅したみてぇだ。咲彩と騎士人形はどうなったんだ?」
俺の発言に対し、雅樹がそう返しつつ、咲彩たちの方へと顔を向ける。
それに続くようにして俺もまたそちらへと顔を向けると、既にギネヴィアと対峙していた1体のみになっており、咲彩が相手をした方は消滅していた。
そして、その残っている1体もまた俺の視線の先で、ギネヴィアの周囲にいつの間にか出現していた8体の形代からの一斉射撃と、霊体の放った霊力の塊をまともに喰らい、何故か膨張。
まるで限界を超えて空気を入れ続けた風船の如く、弾け飛んだ。
一瞬、分裂したか? と思ったがそんな事はなく、怨霊の融合体の本体とも言える、黝い泥のようなものを周囲にボトボトと撒き散らしながら消滅していった。
「やれやれ……なんとも厄介な相手であった。というか、よもや剣で斬っても倒す事が出来ないどころか、分裂という面倒な事になるだけなどとは思いもしなかったぞ……」
ギネヴィアがその様子を眺めながらため息をつき、そう口にする。
それに対して弥衣が形代を手元へと引き寄せて回収しつつ、
「まあ相性が悪かったとしか言いようがない」
と、言った。
「でも……。咲彩が……光弾を連射して破裂させたのを見て……同じ事が出来るかも? と思って試したら、本当に出来たね……」
「斬撃には強いけど、射撃には弱い? そもそも、どうして破裂するのかがさっぱり分からない」
霊体に続くようにして、ミイがそんな風に言って首を傾げる。
「そうだな……。一部始終を見ていたわけじゃないからある程度推測になるが、一気に多数の魔力を叩き込まれた事で、奴らを融合させていた術式に負荷がかかりすぎて、耐えきれずに崩壊した……と、考えられるな」
「そうね。私もそう思うわ」
俺の推測にかりんが頷いて同意。
そこで一度言葉を切り、周囲を見回してから、
「……だけど、今のが『上』に力を送った奴だとは思えないわね」
なんていう続きの言葉を紡いだ。
まあもっとも俺も同意見だが。なぜなら――
「そうだな。なにしろ『障壁』が消えていない」
部屋の入口と通路との間に未だに残ったままの紫色の波打つ障壁を一瞥し、そう口にする俺。
「ただ、収斂してきていた『力』はもう感じないのよね」
「ああ、たしかにそうだな。……一体どういう事だ?」
かりんに対してそう俺が返した所で、
「ううーん……。そもそもの話なのだけれど、ここに収斂――力が『集まってきていた』時点で、何かがおかしい気がする……わ」
と、今まで無言だった綾乃が口を開く。
「もしかして、力が『集まってきていた』のは、『今倒した奴に』じゃなくて、『別の何かに』だったり?」
「別の何か……ですか?」
咲彩の発言に対して紡が首を傾げる。
しかし、俺はそこでハッとした。そう――
「まさか……。魔具や呪具といったものに収斂していた……!?」
という可能性を考えていなかったからだ。
「それはあり得る……わ。ここには、色々な物が集められていた……から」
「だが、どれも壊れていたり破けていたりで、原型を留めている物は皆無に等しいぞ」
「うん。この近くにある原型を留めている物は、あの石の台ぐらい」
綾乃の発言を聞いたギネヴィアと弥衣が部屋の中を見回しつつそう呟く。
石の台――石のベッドと俺は呼んでいるが、あれってよくよく考えてみると、あの上に実験体にされた人間を寝かせる意味とはなんだ?
それこそ、術式を刻むとかの実験をするのであれば、別にここでなくても他の場所でも出来るはずだ。わざわざここでやったのは何故だ? この部屋に儀式に必要な何かがあるのか?
いや、もしだとしたら、あんな石のベッドよりもしっかりとした拘束用のものを作った方が良いはずだ。
となると……あれの上――あの石のベッドの上でなければならなかった……?
と、そこまで考えた所で俺は、自然とベッドへと歩み寄っていた。
そして――
そう。これは『儀式』の台だ。つまり……
俺はそんな事を考えながら魔法剣を生み出すと、それを無造作に振り下ろした。
元々はもっと展開が早かったのですが、ちょっとハイペースすぎて描写不足に感じたので、ちょっと間を追加して今の長さになっていたります。
一応、展開スピードも想定の速度からそんなに遅くならないようにしたので、そこまでスローテンポではない……と思います。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新も平時通りの間隔となりまして、9月4日(月)を予定しています!




