第36話 黝い泥と怨霊たち
「あそこ……!」
そう告げながら石のベッドの方を指さす霊体。
いや、正確には石のベッドの前の床、か。
「黝い染み……。いえ、泥溜まりでしょうか……?」
紡がそこにある『モノ』に対してそんな風に言うと同時に、それが『黝い泥の山』へと変化。
『ルヲヲヲヲヲアアアアアアッッ!!』
という咆哮と共に、『黝い泥の山』の表面に幾つもの顔が現れた。
「不気味……」
「複数の怨霊が融合した感じ……かしらね」
弥衣とかりんがそれを見ながらそんな風に呟く。
『痛イ』『苦シイ』『ナンデ』『熱イ』『寒イ』『ドウシテ』『暗イ』『痛イ痛イ』『助ケテ』『ドウシテコンナ』『怨ム』『憎ム』『ウアア』『呪ウ』『ギイィ』
そんな声が一斉に聞こえて来ると同時に、黝い泥の山――いや、怨霊の融合体から今度は幾つもの腕が生えてくる。
「良く分からぬが、とっとと斬り裂くのが良さそうだ」
「それに関しては同感だよ」
そうギネヴィアと咲彩が口にしつつ、怨霊の融合体へと一気に踏み込み、それぞれの剣を振るった。
……まあ、さすがそれで倒せる程弱くはないというもので、
「分裂した!?」
と、咲彩が驚きの声を発した通り、ギネヴィアと咲彩によって切断されたはずの怨霊の融合体は、4体に分裂した。
さらにそこから分裂した4体全て、足が生え、胴体が横に伸び、上部が盛り上がってマントの如き形状へと変化した。
『アアアァァァァアァァアァァアアァァアァアァッッ!!』
怨霊の融合体4体の咆哮が一斉に響き渡り、既に生えている幾つもの腕、その手のひら部分から次々に剣や槍、斧といった物が生み出され、そのまま腕の一部と化した。
そして、そのうちの2体がギネヴィアと咲彩へ、残る2体がミイへと視線を向けると、そのまま勢いよく跳躍して襲いかかる。
「こっちに2体来た……!?」
いきなり2体の怨霊の融合体に狙われた事に対し、驚きの声を上げるミイ。
……ミイを狙っているというよりは、ミイが抱えたままの人形を狙っているような気がするな、こいつら。
なんて事を考えつつ、ミイの前に防御障壁を展開する俺。
と、同時に紡の防御障壁も展開された。
2体からの同時攻撃を受けた所で、俺と紡による二重の防御障壁を突破出来るわけもないというもので……バチバチと火花を上げながら、空中の防御障壁に武器を何度も、何度も叩き付ける事しか出来ない怨霊の融合体2体。
「んー、斬って駄目なら、燃やしてみるとすっか」
そんな事を呟くように言いつつ、雅樹がミイへと攻撃を仕掛けた怨霊の融合体2体のうち1体との間合いを一気に詰め、そこから魔法で生み出された炎の爪を振るった。
『ウギィィィッ!?』『熱イ熱イィィッ!!』『痛イ苦シイ痛イイィッ!!』
幾つもの苦悶の叫びと共に、怨霊の融合体に爪痕が刻まれる。
そして、それとほぼ同時に爪痕から炎が噴き上がったかと思うと、瞬く間に炎が周囲へと広がり、怨霊の融合体のその身体を焼き始めた。
って、見ているだけっていうのもどうなんだって話だな。
というわけで、俺も動く。
雅樹が攻撃を仕掛けなかった方の怨霊の融合体へと右腕を伸ばし、手のひらを向ける。
そしてそのまま「凍りつけ!」と言い放った。
直後、白い霧状のものが怨霊の融合体の足や腕へと絡みつき始める。
さらにそれは侵食するように足元から、腕から、首から、怨霊の融合体を凄まじい速さで凍らせていく。
その速さは『冷タイィ』『寒イィィ』『苦シィィ』などという怨霊どもの怨嗟の声がすぐにかき消えてしまうほどだ。
あっという間にカチカチに凍りついた怨霊の融合体へと視線を向けたまま、俺は「ふっ!」と息を吐きながら衝撃波の魔法を発動。
衝撃波は寸分違わず凍った状態の怨霊の融合体に激突。
怨霊の融合体は、ガシャアァァアァァアァァン! という盛大な破砕音と共に、文字通り粉々に砕け散った。
……そう言えばこれ、氷が溶けたらまた分裂したりするんだろうか?
なんて事を俺が思った直後、氷の破片――怨霊の融合体だったモノは、そのままスゥッと消滅していった。
消滅したという事は、怨霊を浄化する事が出来たと考えて良い……のか?
良く分からないが、復活してくる気配もないので問題ないだろう。
仮に復活してきたら倒し方を変えるまでの話だしな。
っと、それはそうと他の3体はどうなっているんだ?
ここの戦闘、本来は若干長かったのですがスパッとカットしました。
まあ、長いだけで特に何もない展開だったのでカットしてもいいかなと……
次の話の分もスパッとカットされているので、次の話も一気に進みます。
とまあそんな所でまた次回!
次の話もある程度出来てはいるのですが、月末月初の諸々の都合がある為、次の更新も平時通りの間隔とさせていただきまして、9月1日(金)の更新を予定しています。




