第35話 儀式部屋にて
「ここが、儀式の部屋……よ」
綾乃がそう告げた場所は、石畳の床が敷き詰められた、学校の教室2部屋分……いや、3部屋分近い広さのある部屋だった。
部屋の中央付近が高くなっており、更にその高くなっている場所の中心には石で作られたベッドのようなものがあった。
いや、『ようなもの』は不要か。あれは石のベッドで間違いないだろう。
また、部屋全体に壊れた何かの機材や、資料の一部と思しき紙切れ、そして古い書物などが散乱しており、まさに『かつて実験に使われていた場所』といった感じだ。
「これはまた、いかにもといった雰囲気の漂う場所ですね」
そんな風に紡が言うと、雅樹がそれに対して「ああ、まったくだ」と同意。
そしてそのまま周囲を見回し、
「――だが、誰かが潜んでいるとかそういう感じはしねぇな」
と、そう言葉を紡いだ。
「でも、邪な『力』はこの部屋全体から感じるわね」
かりんがそんな風に言うと、
「うむ。たしかに。しかも、さっきよりも増している」
「うん。どんどん湧き出してきているような、そんな感じがする」
と、ギネヴィアとミイが続く。
たしかに妙な『力』がこの部屋に収斂してきている感覚があるな。
収斂具合からして、今すぐ何かを仕掛けてくるつもりではなさそうだが、様子見している感じなのだろうか? ま、とりあえず注意だけはしておくとしよう。
そう俺が考えた所で、今度は弥衣が今度は弥衣が石畳の床をじっと見つめながら、
「……あと、なんか嫌な感じの染みが広がってる」
なんて言ってきた。
まあ、そりゃそうだろうと心の中で呟きつつ、俺は答える。
「その染みは血の痕だな。中央から放射状に広がっている事、それと中央に近い程濃い事、このふたつから考えるに、おそらくあの中心にある石のベッドの上で『実験』が行われて、そこから――実験に使われた人間から流れ出したものだと思っていいだろう」
と。
「これだけの染みが出来てる時点で、かなりの数の人が実験の犠牲になってるってのが凄く良く分かるね……」
「……私たちがここを発見した時には、既に染みが広がっていた……わ。もう少し薄かったけれど……ね」
咲彩に続くようにして、そんな風に告げてくる綾乃。
「異空間が消失してもなお、あれだけの怨霊が巣食っていた理由が納得出来るというものだわ」
かりんがため息混じりにそう言うと、
「まったくもってそう……だね。でも……一体どんな実験――儀式をしたら……人間が怨霊になるのかが……謎」
と、霊体が腕を組みながらそんな事を口にする。
「……ここでは、たしかに人造の妖魔を生み出す研究……と、実験はしていた……わ。でも、人造の幽霊を生み出す研究も実験もしてはいない……わ。偶然生み出された事もなかったはず……よ」
「ですが、綾乃さんは幽霊になっていますよね?」
綾乃の発言に対して、紡がそんなもっともな疑問を投げかける。
すると綾乃は、こめかみに手を当てながら、
「そう……。その通り……よ。だけど……私自身、どうして幽霊になってしまったのか覚えていない……わ。気づいたら幽霊になっていて、そして他の幽霊――怨霊たちに追いかけ回される状態になっていた……わ」
なんて事を言ってきた。
気づいたら、か。
幽霊と化す前後の記憶が失われていると考えるべきだが……
そんな事を俺が思った直後、部屋全体が脈打ったかのように震えた。
「っ! 今の……何?」
ミイが驚きと困惑の入り混じった表情でそう口にするとほぼ同時に、
『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッッ!! 罠、罠、封鎖……ッ!!』
なんていう昏い声が響き渡り、部屋の入口と通路との間に紫色の波打つ障壁が出現する。
部屋全体を見回してみると、これまで収斂し続けていた力が、部屋全体に満ちているのがわかった。様子見をしているのかと思っていたが、この感じだと少し違うな。これは単に――
「……もしかして攻撃が散発的だったのは、ここまで引き込んでから仕掛けるつもりだったから?」
弥衣がそんな推測を口にすると、かりんが頷きながら、
「ええ、そうみたいね。私たちがこの部屋に入ってすぐにそうしてこなかったのは、様子見をしていた……わけではなく、単にそれをする為の力が足りなかった感じかしらね?」
と、そう言って腕を組む。
「ま、そんな所だろうな。俺たちがここに来てから、じわじわと収斂し続けていた力が、今ようやく満ちたって感じだし」
俺はそう短く返事をしつつ、俺たちをここから逃さないための障壁を作り出すのに、これだけの時間を要するようでは、大した事なさそうだな……と、そんな風に思うのだった。
なにやら『大した事ない』的な話をしていますが、実際『大した事ない』と思います(何)
とまあそんなわけでまた次回!
次の更新も平時通りの間隔となりまして、8月29日(火)を予定しています!




