第33話 疑似封印と陣
「くぅっ! こ、これは……精神に負荷がかかっているというのが……良く分かります……ね……っ!」
アンデッドを見据えながら少し苦しげに呟く紡。
それは、障壁魔法『シルマギル』の上位魔法である『シルマグラターナ』で生成された八角柱の障壁の中に閉じ込められている状態となったアンデッドが、障壁を破壊しようと暴れているせいだ。
障壁の上から再拘束する必要がある為、紡が八角柱の障壁を生成してアンデッドを封じ込めた時点で、かりんによる拘束は解除されている。
つまり、今アンデッドを抑え込んでいるのは紡ひとりなのだ。
一応、俺が浮遊魔法と加重魔法を併用する形で動きを鈍らせてはいるのだが、あまり効いているような気がしない。
「すぐに再拘束するから、それまで耐えて!」
かりんが拘束の符術を発動させながらそう紡に声を投げかける。
それに対して紡は、
「だ、大丈夫……です。まだ余裕はある……のでっ」
と答えるが、そこまで余裕がありそうには見えない。
「えいやっ!」
かりんがそんな掛け声を発した直後、呪符の鎖が八角柱の障壁に絡みつくかのように展開される。
無論、実際に八角柱の障壁に絡みついているわけではない。今の段階では障壁に接触したら弾かれてしまうからな。
「――メフォハオーナ!」
俺は障壁が鎖を弾いてしまわないように、無機物を硬化させる魔法を使って障壁と鎖を貼り付かせる。
魔法や術によって生成されている障壁や鎖は無機物扱いになるので、このような芸当も出来るはずだと考えたのだが、どうやら上手くいったようだ。
これで鎖が障壁に絡みついているのとほぼ同じ状態になった。
あとはこれを強引に魔法収納空間へ放り込めば……
「ヲヲヲヲヲヲヲッッ!?!?」
驚愕の声と共にアンデッドの姿が消失し、部屋全体が急激に朽ち始める。
「……全身にかかっていた『重さ』のようなものが消えましたね」
「ええ。どうやら上手くいったみたいね」
紡とかりんがそんな風に言った通り、ほぼ思いつきのぶっつけ本番みたいな疑似封印だったが、成功したようだ。
まあ、相手がそこまで力を持っていなかったからというのもあるが……
というか、魔法収納空間内で暴れるかと思ったが、そんな感じもなさそうだな。
もしや、外からの『干渉』が寸断された……のか?
そんな事を考えていると、
「急にボロボロになった……?」
と、周囲を見回しながら呟く弥衣。
それに対して、綾乃が首を横に振って答える。
「いいえ、これが本来の姿……よ。もうこの屋敷は、このくらい朽ちている……わ」
「なるほど、納得。それで、次は……下へ行く?」
「ああ。あのアンデッドを豹変させた力は『下』から流れてきた上に、紡たちが例の書庫部屋で地下へ続く隠し階段を発見している。となると、その隠された地下に『全てがある』と考えて間違いないだろうからな」
弥衣に対してそんな風に説明する俺。
「なら、早速向かうとしましょ」
弥衣の代わりにそう告げてくるかりんに頷き、来た道を引き返す俺たち。
おっと、アンデッドの居た場所にこいつを撃ち込んでおかないとな……っと。
去り際に魔法弾を放っておく俺。
「……目に見えないように隠蔽されていた『それ』って破壊して大丈夫だったの?」
俺と同じく『それ』を認識していたらしいかりんが、そう問いかけてくる。
そう……そこには見た事のない文字がびっしりと刻まれた、札の形をした紋様を複数重ねた代物――この国で古の時代に使われていたであろう文字を使った、奇妙な形状の魔法陣と思しき物が設置されていたのだ。
「大丈夫だ。疑似封印が成功した時点で、あれは破壊してしまっても問題ない事が分かったからな」
「なるほどね。……ところで、今壊した『陣』だけれど、あの異形の怨霊もどきをここに縛り付けていたっぽいわね。しかも、なんというかこう……花子さんカッコ仮の時と状況が似ているという点が、どうにも気になるのよね」
「そうだな。互いに繋がりがありそうには見えないが……」
かりんに対してそう返しつつも、一見繋がりがなさそうなものでも、意外な繋がりがあったりするものだからなぁ……と、そんな事を思う俺だった。
前回の話から溢れた分だけで1話が終わってしまいましたが、どうにか疑似封印完了まで収められたので、無事(?)次の話から地下の探索に移れます。
……想定では、地下はそんなに長くならないはずなんですが、どうなるかは分かりません(汗)
とまあそんな所でまた次回! 次の更新ですが、平時通りの間隔となりまして、8月23日(水)を予定しています!




