第32話 舞奈と魔法V
「――だが、なるほど……理解した。つまり月城は、月城のお爺さんと同じくらいの『達人』になりたいから、運動神経の不足分を魔法で補いたい……と、そういう事か」
「……はい、そういう事です。そして……出来ればお祖父様を超えてみたいんです。――魔法を使えば、自らの身体能力だけでは絶対に無理である事を理解してしまい、辿り着く事を諦めてしまった『そこ』に仮初であろうとも、辿り着けるようになるのではないか? そんな風にさっき思ったんです」
弓道場の前で「自分ではやらない」と言った時に感じたアレは、やはりそういう事か。舞奈は『諦めた』と言いつつも、まだ『諦めきれていなかった』んだな。
そして今……魔法の存在を知り、それを含めて分析した結果、『可能性』を見出した……というわけか。
そうであるのなら、俺にも身に覚えのある話だし、身体強化魔法を教えてやりたい所ではあるな。
なんて思っていると、
「もっとも、純粋に魔法を使いたいという思いも、勿論ありますけどね! 魔法少女のアニメとか良く見ていますし! 魔法少女とかちょっと憧れるんですよね、やっぱり! まあ、謎生物と契約してまでなりたくはありませんけど!」
と、そんな事を目をキラキラさせながら言ってくる舞奈。いや、謎生物って……
「さすがに謎生物との契約はいらないな。――で、それはともかくとして……教える事自体は別に構わないんだが、魔法って誰でも使えるわけじゃないというか……そもそも資質ってものがあって、それが重要になってくるから、舞奈の望む魔法が使えるようになるという保証はまったくない。……それでもいいか?」
そんな風に俺は告げる。
そう……。魔法を教える事、それ自体は難しい事じゃない。
だが、使えるようになるかどうかは資質が強く影響する。
資質なしの努力だけでどうにか使えるように出来るのは、生活に必要となる基礎魔法、それから初歩的な攻撃魔法と妨害魔法くらいだ。
それ以上の魔法を使おうとするならば、どうしても資質が必須になる。
そして、資質には多くの種類があり、仮に資質を持っていたとしても、望んだ系統の魔法――舞奈であれば、身体強化魔法だな――が使える資質であるとは限らない。
故に、俺は舞奈に問いかけたのだ。
そして、その舞奈は俺の問いかけに一切の迷いなく、
「はい。それでも構いません。なにもしないよりも、少しでも可能性があるのなら……それを試してみたいんです。私は」
と、そう返してきた。実に真っ直ぐな目で。
であれば、俺もしっかりやるべきだろうと考え、
「そうか……。わかった。なら、まずは資質を調べる所からだな」
そう告げた直後、クゥッという可愛らしい音が鳴った。……無論、俺ではない。
「――と思ったが……まずは飯にするか。こっちはこんな感じだが、日本ではもう夕飯の時間だしな」
「あ、あぅぅ……。折角、ここまでシリアスな感じだったのに、締まらない形になってしまいました……」
腹を抑え、顔を赤くしながらそんな事を言ってくる舞奈。
……自分で『ここまでシリアスな感じだった』とか言ったら、余計締まらない気がするが……まあ、敢えて何も言うまい。
5話に及んだ『舞奈と魔法』も一段落して、日本へと戻ります。
……まあ、ドイツに来たからといって何かしたわけではないですが。
といった所で、また明日!




