第32話 説明と見つけたもの
とりあえず『ちょうど良かった』について聞く前に、こちらの状況を説明してしまおうと考え、俺はこれまでの出来事を一通り話し、最後に、
「とまあ、そういうわけで擬似封印を行う為に紡の魔法が必要なわけだ」
と告げて、紡の方へと顔を向けた。
「なるほど、障壁魔法を封印として応用しようというわけですか。分かりました、すぐに行きましょう! ばっちりやってみせます!」
ずずいっと俺に近寄り、食い気味にそう言ってくる紡。
俺はその勢いに少し後退しつつ、
「あ、ああ。よろしく頼む」
とだけ返す。……あまりの勢いにそれしか返せなかったともいうが。
「ところで、今さっき咲彩が『ちょうど良かった』と言いかけていたが、何か見つけたのか?」
「あ、うん、実はテンプレそのものな地下へと続く隠し階段を見つけたんだよ!」
俺の問いかけに対し、そんな風に返してくる咲彩。
テンプレそのものって……。まあたしかに、こういう『何かが隠されている建物』って、地下へと続く隠し階段が定番みたいな所はあるよなぁ……。向こうの世界でも結構見かけたし。
というか、新たな魔法の開発の為に人間を実験体として使っていた連中も、砦の地下を使っていたな。世界が違っても、その手の奴らの思考は同じって事なんだろうか……?
なんて事を思っていると、雅樹が咲彩の言葉を引き継ぐように、
「んで、ちょいとばかし地下を覗いてみたんだが、石壁を木で補強したような造りの通路があってな。なかなか広そうな感じだったから、こいつは全員で探索した方が良いんじゃねぇか? って話をしていた所なんだ」
と、そう説明してくる。
「今の透真の話からすると、多分、捕らえた人たちを監禁しておく部屋とか、実験――儀式用の部屋とかがありそうな感じだよね」
「ですね。奥へ行こうとする咲彩ちゃんを静止して正解だった気がします」
「……静止なんて穏便なものじゃなかったけどね?」
紡に対して、咲彩が抗議めいたジトッとした目を向ける。
また障壁でふっ飛ばされたか、あるいはアイアンクローなる名前の『鷲掴み』でもされた感じだろうか?
なんて事を思うも、俺はそれについては何も触れずに、
「ま、奥に行かなくて正解だったのは間違いないと俺も思うぞ。上の奴を封印したら全員で踏み込むとしよう。ふたりはここで見張りも兼ねて待っててくれないか?」
とだけ告げる。
「おう、了解だぜ。地下から何かやべぇのが出てきたりしたら、誰かが対処しねぇとまずいもんな」
「だね。もし化け物とかが這い出してきたら、外に出ちゃう前にここで倒さないと駄目だよね。うん、任せといて!」
ふたりのそんな返事を聞いた俺は、
「そうそう何か出てきたりはしないと思うが、もし出てきた時は任せた」
と言い残すと、再びかりんたちの所へと向かう。
そして……相変わらずというべきか、なんの怪奇現象も起きなければ、なにかが襲ってくるような事もなく、あっさりとかりんたちの所へと辿り着く俺と紡。
「あ……れ……? 随分と……早いね?」
少しだけ驚き気味に言ってくる霊体に、
「ああ、怪奇現象もなければ、襲いかかってくる奴もいなかったからな」
と答える俺。
「何もなかった? もしかしてもう弾切れ? それとも、これまでのは全てこの異形の怨霊が原因で、かりんが拘束しているから何も出来ない?」
ミイがそんなもっともな疑問を口にする。
「現状では何とも言えないな。それ以外の理由も考えられるし」
「それ以外……。例の『下』からの?」
「その通りだ。あくまでも可能性のひとつだけどな」
「なるほど」
「まあ、その辺りはこいつを疑似封印して下を調べれば分かるってものだ。もっとも、俺の想定通りにいってくれれば……だけどな」
ミイに対してそう返事をしながらアンデッドを見る俺。
その俺に続くようにして紡がアンデッドへと視線を向け、
「あれが話に出てきた咲彩ちゃんを一度殺害したという奴ですか」
と呟いた。
「ま、今の咲彩なら返り討ちに出来ると思うわよ。って、それはそれとして、そろそろ疑似封印を試してみましょ。徐々に重くなってきてるのよね……」
かりんが拘束を維持しつつそんな風に言ってくる。
おっと、いかん。
「ああすまん。早速、試してみるとしよう」
「はい、分かりました。それで、私はどの障壁魔法でなにをすればいいんですか?」
頷きつつ問いの言葉を投げかけてくる紡。
それに対して俺は、
「やる事自体はそこまで難しいものではない……と思うんだが、まずは――」
と切り出し、思いついた疑似封印のやり方を、紡とかりんに説明し始めた。
思った以上に会話が長くなってしまったので、一度ここで区切りました……
次の話の分も既にほぼ出来ているのですが、現状だと更に長くなってしまいそうなので、ちょっと1話で収まるように調整しまして、明後日8月20日(日)に更新しようと思います!




