第28話 幽霊とホムンクルスと破壊の力
「……その感じだと、その前の話も聞いていなかったように見える」
「……すまん」
ちょっとジトッとした目を向けてくる弥衣にそれしか返せる言葉のない俺。
「何をそんなに深く考え込んでいたのか気になるけど、まあ今は置いといて……」
かりんはそう言って両手を左右に広げてみせた後、
「ほら、さっきからこっちにあれこれと仕掛けてきている親玉的なのがいるでしょ? とりあえず、あれをどうにかすれば片付くのかもしれないと思って、綾乃にあれは一体なんなのかと詳しく聞いてみたのよ」
と、そんな風に説明の言葉を続けた。
「そうしたら、あれは案の定というべきか、彼の実験の『被検体』だったとわかったのだ。そして、我々に襲いかかってきた怨霊たちも同様であると……な。ゆえに、このまま次々と滅するという方法以外に、どうにかする方法はないものか……と、そうマイレディたちは思ったのだ。……個人的には、あのような存在になってしまった以上、滅するのがあの者たちにとっても良いと思うのだが。というか、綾乃を追いかけまわしている時点でその方が良いだろう」
ギネヴィアがそう言って腕を組みながら綾乃を見る。
そして、それに続くようにして、かりんが綾乃に問う。
「そう言えば、綾乃を追いかけ回している理由ってなんなの? 奴らは裏切りがどうとか言っていたいたみたいだけど」
「……裏切り……。私はあの雑誌の記者――この場所の写真を撮影して記事を書いた女性記者で、今はその人形に魂を閉じ込められている――と共に実験に賛同出来なくなって、『被検体』を逃がそうと……した。だからだと……思う」
そう言いながら、ミイの持つ人形へと顔を向ける綾乃。
「なるほど……そういう事。でも、それなら『被検体』である怨霊たちが襲ってくるのが、いまいち理解出来ない」
「たしかに……『被検体』を裏切ってはいない。実験を妨害された研究者が、そう命令したとか?」
「あるいは、憎悪や怨念によって思考が混濁してしまっているとかなのやもしれぬな」
「それは、逆恨みみたいな感じ? 逃がすと言っておいて……的な?」
「その通りだマイレディ。逃げられると思ったのに結局逃げられなかったという想いが、怒りや憎しみへと変異してしまった……というのも十分に考えられる」
弥衣とギネヴィアのそんな話を聞き、
「そうだな……。その可能性は普通にありえるな」
と、俺が言うと、ミイが顎に手を当てながら問いかけてくる。
「なら、正気に戻せる?」
「うーん……私的には無理そうに感じたけど……」
「そうだな……。俺から見ても、ちょっと……いや、かなり難しそうだ」
弥衣に対してかりんと俺がそう答えると、今度は霊体が、
「例えば……だけど、セラのように……ホムンクルスを使う……とかも出来ない?」
という問いの言葉を投げかけてくる。
しかし、残念ながらその方法は使えなかったりする。なぜなら――
「……俺もセラの一件で知ったんだが、どうも幽霊ならばなんでもホムンクルスに移せるというわけではないらしい。『生前の姿を持っていて』なおかつ『生前の記憶と思考能力を持っている』という条件を満たしていなければ無理なんだそうだ。――ここにいる怨霊は、どう考えてもどっちの条件も満たせていない」
「なるほど……たしかに。ホムンクルスの技術……は、幽霊に片っ端から仮初めの肉体を与えられるような……そういう代物じゃ……ないんだね?」
「さすがにそこまでとんでもない物ではないようだな。いやまあ……今の時点でも大分とんでもないっちゃとんでもないんだけど」
霊体にそう返しつつ肩をすくめてみせる俺。
霊体の言うそれは、最早蘇生装置だ。さすがに『破壊』の力が根幹である以上、そこまでの事をするのは難しいだろうな。
桜満たちが継続して調査した所、あれは古い肉体と魂との結びつきの残滓を完全に破壊して切り離した上で、新しい肉体――新しい『魄』と魂とを隔てるアストラルの壁……のようなものを破壊して、『魂魄』の繋がりを作りなおすという仕組みだと判明した……とかなんとか言っていたし。
まあ……そう言われても、どういう風にしてそんな事が出来るのかがさっぱり分からなかったりするんだけどな。
……ここの話、本来は今の半分くらいで終わる想定だったのですが、あれこれ説明を入れた所、思ったよりもかなり長くなってしまい、ここで一度区切ることにしました……
その為、かりんの言葉通り、随分とここで留まってしまうという結果に……
ただ、本来今回の話で進む部分だった所までほぼ出来ていたりするので、明後日に続きを投稿しようと思っています。
というわけで、また次回!
次の更新は上に記載した通り、明後日8月9日(水)を予定しています!




