第16話 本と霊的なモノ
「……そもそもの話として、この本は、いつどこで誰が書いた物なのかが不明瞭だ。話をした限りでは、黒志田も言及はしていなかったものの、話ぶりからするに、ただ手に入れただけ……という感じだったしな」
「というか、これってどこで印刷されたんだろうね? 見た感じ、写本の類じゃないから、どこかで印刷された物だよね?」
俺に続く形でそんな疑問を口にする咲彩。
「……そういや、あの『学校』の先に研究所だか工場だかがあったって、さっき言ってたよな?」
「言った。……まさか、あそこで印刷された?」
問う雅樹に対し、弥衣が頷きつつそう返す。
「あー、そういう事かぁ。そこで印刷された物が各地に広まったってわけだね?」
そんな風に言う咲彩に俺は、
「そうだな。そして、弥衣が『写真で見た』と言っていた事から推測するに、この屋敷の住人がそれを手にして持ち帰ってきた後、屋敷ごと亜空間に飲み込まれた……といった所だろう」
と、頷いてみせながら推測を口にする。
「なるほど……納得です。それにしても、この本にこのような大きな屋敷ごとあの亜空間に引き摺り込む事が出来るような力が秘められているとは驚きです……」
「いや。この本自体に……というか、ここに込められている例の術式にはそこまでの力はない。ただ……この辺りに満ちる強い霊的な力との相互作用によって、引き摺り込む程の力を持つに至った……というのは、十分にあり得る話だ。なにしろ、村もこの屋敷もあの亜空間に飲み込まれて消失した後も、この場所には例の黒い手が出現したり、咲彩があちら側からこちら側に抜け出してきたりした時に使われた次元の綻びというか穴というか、そういった物が存在し続けていたわけだしな」
俺が紡に対してそんな風に説明すると、ミイが、
「もしかして、未だに怨霊の類が姿を現すのも、その強い霊的な力の影響?」
という問いの言葉を俺に投げかけつつ小首を傾げた。
「そっちは何とも言えないが、そう考えるのが一番しっくりくる。なにしろ、強い霊的な力ってのは、存在するだけでああいった存在を惹きつけやすいものだからな」
そんな風に返事をしながら、俺は向こうの世界のアンデッドどもが巣食っていた廃城や都市の遺跡の事をふと思い出す。
……そう言えば、あそこに満ちていた力も、この場所に満ちている力にどことなく似ている気がするな……という事を。
もしや、根幹は同じ……なのか? そして、だからこそ錬金術師たちはその力を利用して、向こうの世界と繋がる門を作ろうとした……のか?
そんな思考を巡らせていると、
「それにしてもよ……。あんな厳重に封じられていた割にゃ、なんてことねぇ普通の書庫って感じだよな、この部屋」
「だねぇ。特に他に気になる物もないし……」
という雅樹と咲彩の声が耳に届いた。
「たしかにそうだな。いや……もしかして、まだ見落としている何かがある……のか?」
そう呟きながら周囲を見回す俺に、かりんが問いかけてくる。
「それはつまり、この部屋に隠し通路とか隠し階段の類があるかもしれない……という事かしら?」
「ああ。まあ……あくまでも『かもしれない』だけどな」
そう告げた俺に続く形で、
「なら、壁とか床とか天井とか、そういうもんがありそうな所を詳しく見てみるとすっか」
「そうですね。回転する壁とかスライドする床とかあるかもしれませんし」
「忍者屋敷じゃないんだから……。もっとも、この屋敷の雰囲気的には、あり得ないとは言い切れないけど……」
と、雅樹、紡、咲彩の3人がそんな事を言いながら床や壁、天井といった部分を詳しく調べ始める。
「……天井と言えば、『上』から邪な霊力を感じるのよね。さっきから動きに注視していたんだけど、ずっと止まったままだから、あまり影響はないかもしれないけど……」
そう上を見上げながら呟くように言ったかりんに、咲彩が首を傾げてみせた後、
「上? ……あー、そう言えばここの裏口から外に出た時に、上から不気味すぎる奴が降ってきたっけなぁ……。で、ボクはそいつに長い手で掴み上げられて、そのまま殺されたんだよね」
なんて事を思い出しながらといった感じで口にしつつ、上に顔を向けた。
――そう言われてみると、2階部分にはまだ足を踏み入れていないな。
この部屋も気になるが、そっちも気になる所だな……
今回はあれこれと伏線の一部を回収した事もあって、思った以上に話が長くなりました……
とまあ、そんな所でまた次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、7月6日(木)を予定しています!




