第2話 成伯透真と月城舞奈
「よし、それじゃしっかり俺に掴まっていてくれ」
俺は少女が後ろに乗ったのを確認すると、そう告げる。
と、少女はコクンと首を縦に振り、了承の意を示してきた。
もっとも、もし手を離してしまったとしても、目に見えず重さも感じない魔法の鎖で繋いであるから落ちたりはしないんだけどな。
「行くぞっ!」
――加速魔法付与! 耐久強化魔法付与! 物体浮遊魔法付与! 飛翔魔法付与! 防御膜展開魔法付与!
片っ端から自転車にエンチャント――魔法付与を施し、そして漕ぐ。
地面からほんの少し――数ミリだけ浮いた自転車が滑るようにして走り出す。
……いや、浮いているから『飛んで行く』……か。
何故こんな事をしているのかというと、魔法が一般的ではないこの世界で、魔法を大っぴらに使うわけにはいかないからだ。
……と、何の因果かこの世界に辿り着いた俺を、保護してくれた人物が言っていたので、その通りにした。
簡単に言えば、全力で漕いで走っているかの如く見えるよう、カムフラージュしたのだ。
そんなわけで……自転車は魔法の力によって、地面スレスレの所を物凄い速さで飛んで行く。
いやまあ……実の所、物凄い速さと言いつつ、せいぜい時速30キロくらいしか出ていなかったりするんだが。
……これ以上スピードを出すと、この道の制限速度を超えてしまうのだから仕方があるまい。
この世界では、標識とやらに記されている制限速度を守らねばいけないようだからな。
とはいえ、この速度でも余裕で間に合うはずだ。
「す、凄い……ですね……っ! 車並の速度です……っ!」
「もっと出せなくもないが……ここで出すと危険だからな」
「も、もっと出せるんですか……っ!? お、驚きです……っ!」
「い、いや、それほどでも……」
う、うーむ……。手放しにここまで褒められると、魔法でインチキしているのが若干後ろめたい気持ちになるな……
「そ、そういえば自己紹介がまだだったな。俺はナリキトウマ。ナリキは成長の成に伯爵の伯、トウマは透明の透に真実の真と書く」
とりあえず話題を変えようと考え、そういえばまだ名乗るっていなかった事を思い出した俺は、そう少女に対して告げる。
漢字なんてものは向こうの世界にはなかったので、もちろん透真というのは当て字だ。
……そういえば、俺を保護した人物に名前を告げた時に、「幻想をぶち殺しそうな名前なのに、その幻想から来ているというのが何とも面白いね」などと言われたっけな。まったくもって意味がわからんが……
――閑話休題。名字の方はそのままだとわけがわからない事になるので、大魔道士と称されるようになった際に伯爵位を得たので、伯爵に成った者、という事で成伯だ。
「あ、私はツキシロマイナと言います。ツキシロは夜空に浮かぶあの月に、英語でキャッスルと言う方の城と書きます。マイナは……えーっと……舞い踊るの舞に奈良の奈です」
と、そんな風に名乗ってくる少女――いや、月城舞奈。
「――成伯さんは、もしかして転校生……ですか?」
舞奈がそんな風に問いかけてくる。
「ああ、その通りだ。よく分かったな」
「はい。見た事のない顔でしたし、今日転校生が来るというのは、クラスで話題になっていましたから」
「なるほどな。……ところで、さっきから気になっていたんだが、どうして敬語なんだ? そのネクタイの色からして、俺と同じ学年だよな? もっと普通に話していいぞ?」
「あ、いえ、私はこれが普通というか……昔から、こういう喋り方をしてきたので、他の喋り方をするのが逆に難しいんです」
「ああ、そういう事か」
「はい、そういう事なんです。なので、お気になさらずに」
そんな舞奈の言葉を聞きながら、そういえばコーデリアがこんな感じだったな……なんて事をふと思い出す俺。
……コウイチたち、あっちで――魔王も破壊神もいなくなって平和になった……であろう世界で、新婚生活を楽しんでいるといいんだがな……
なんて事を考えていると、前方に大きな建物が見えてきた。
それは写真で見たのと同じ建物――つまり、俺が今日から通う事になる学校だ。
「あ、そこの坂を下らないと校門に行けませんよ」
という舞奈の声が聞こえてきた。
「いや、それだとちょっと遠い。だから、飛び越える」
「……はい?」
俺の言葉が理解出来なかったのか、舞奈が素っ頓狂な声を発した。
本日の投稿はまだ続きます!