第137話 笑う者、認める者
「それはそれとして……そうなると、貴方は元々その女子トイレに縛り付けられていた幽霊――魂を、この学校の『花子さんカッコ仮』に何らかの方法で移した……という事ですか? だから、『その通りだとも言えるし違うとも言える』……と?」
「ああ、それもその通りだよ。いやはや、実に優秀だね。――僕は『消えかけていた幽霊』――『魂』を偶然にも手に入れる事が出来てね。それをこの学校の怪異たる『花子さんもどきの幽霊』と融合させたんだ」
黒志田が、再び舞奈に対して笑みを浮かべて褒めながらそう告げる。
その舞奈はというと、嫌そうな雰囲気から忌々しそうな雰囲気へと変わっていた。
それが融合させた事に対する忌々しさなのか、それとも褒められた事への忌々しさなのかはわからないが……って、両方か?
なんて事を考えていると、「幽霊……。消えかけ……」と、ぼそっと霊体が呟く。
消えかけていた幽霊……か。
少し前にセラが、俺たちと出会う前は『自分が消えていくような感覚があった』と話していたが、まさに『それ』なのだろう。
というわけで、俺は舞奈から黒志田へと視線を移し、
「ああ、なるほど……そういう事か。あんたは最初から『呪縛』されていた魂を霊体に移したってわけか。さしずめ、その『少女の魂』――霊体は消えかけていて、ほとんど記憶を有していない状態になっていた……って所か」
と、そんな風に言葉を投げかけた。
「その通りだよ。君もそっちの子と同じくらい優秀なようだね」
なんて返してくる黒志田に対し、俺は「それはどうも」とだけ言い、
「だが、どうやってそんな事を……」
という疑問の言葉を続けた。
そこに霊体が更に疑問を重ねる。
「そもそも……どうして、そこまで詳しい……の?」
「さっきも何故そんなに詳しいのかと質問をしたのですが、はぐらかされたんですよね。――改めて聞きますが、何故ですか?」
「そう言われても、さっきと同じ答えしか言えないよ?」
舞奈に対してそう返事をして肩をすくめてみせる黒志田。
なるほど……つまり問いかけても無駄というわけか。
だが待てよ? 魂を移す……?
「……ホムンクルス……。まさか、あんたは――『今』の錬金術師どもと関係のある『どこぞの企業』の……?」
「……ああっ! な、なるほど! 例の『魂の欠片』を使う事で魂を移せますね! ちょっと前に『そうやって自らの魂を別の肉体――ホムンクルス――へと移して逃げ回る人間』の相手をしましたし!」
俺の呟くような発言を聞いた舞奈が、合点がいったと言わんばかりの表情で、そんな風に言う。
すると――
「……はっ、ははっ! ははははははっ! はははははははははっ!」
などと、唐突に哄笑し始める黒志田。
「な、何……?」
黒志田の唐突なその姿に不気味さを感じたのか、霊体が嫌悪と恐怖の入り混じった表情でそう呟きながら後退る。
それに対して黒志田は、
「ははっ。いやはや済まないね。笑わずにはいられなかったというか……。なるほどなるほど、そういう事だったのか。君たちが黒野沢の一件の……。うん、実に得心がいったというものだよ。はははっ」
と、霊体に返事をしながら、俺と舞奈を交互に見てきた。
……そんなに笑える事なのだろうか? 良く分からんな。
「黒野沢という名前が出てくるという事は……」
「間違いなさそうですね」
俺と舞奈がそんな風に言った所で、
「そう、その通りさ。間違いないよ。認めようじゃないか」
と、大仰に両手を広げながらそう告げてくる黒志田。
これで、こいつが『どこぞの企業』や『黒野沢』と関係性のある錬金術師という事で確定したな。
そして、それはつまり――
「……よくわからないけど、貴方は……あの異空間を生み出し、何かをしようとしていた錬金術師の……残党――末裔?」
俺の推測ほぼそのままの疑問を、黒志田へと投げかける霊体。
そして黒志田は、そんな霊体に対して、
「ま、そのようなものだね。それにしても……黒野沢の『実験』に続いて、僕の『実験』まで潰されるとはね。……ははっ、本当にやれやれだよ。実に厄介な存在だねぇ、君たちは。はははははっ」
などと、笑い混じりに答えた。
……まあもっとも、その笑いは先程までとは違い『声だけ』であり、顔は笑っていないのだが。
なので、どう動くつもりなのかと警戒していると、黒志田が、
「……もう少し色々と『話』をしたかった所だけど、これ以上『話』をしていたら、逃げ道を塞がれて、黒野沢と同じ結果になってしまいそうだ」
などと、僅かに忌々しげな表情を見せながら言ってきた。
……逃げ道? ……って、あっ!
この先まで含めるかどうか迷ったのですが、一旦ここで区切る事にしました。
といった所でまた次回!
次の話は既に半分近く出来ているので、次の更新は、明後日5月19日(金)を予定しています!




