第134話 ミイと錬金術師
「わわっ! こ、こんな所にもゲートを作っていたんですね……。いつの間に……」
学校へ到着するなり、舞奈の驚きの声が聞こえてくる。
声の方へと顔を向けると、ちょうど校舎から渡り廊下に出てきた舞奈の姿があった。
「いや、元々はここにゲートを作ったんだよ。ただ黒志田を警戒して使わなかっただけで」
「ああー……なるほど。黒志田に視線を向けられたのはこの場所だったんですね。言われてみると、たしかにここからだと図書室が見えますね」
「ああ、そういう事だ」
俺は舞奈に対して頷いてみせた後、図書室がある方の棟へと顔を向け、
「それはそうと、舞奈がここに来たという事は……だ。黒志田は向こうの棟にいるのか?」
と、そう問いかけた。
「はい。あちらの棟の空き教室に拘束しています」
「それはつまり、尋問……という名の拷問中?」
頷く舞奈に、そんな言葉を投げかけるミイ。いやいや……
「えっと……今の時代に、そんなものはありませんから……。たしかに明治時代や大正時代などは、警察で『そういう事』も裏で普通に――いえ、公然と行われていたようですが……」
「そうなの……。それはいい時代になったね……。私は昔、カナを意図的に殺したんじゃないかって疑われて、殺した事を自白しろって言いながら何度も殴られたし」
「え? い、いえ、その……ヨーロッパの魔女狩りの時代ならともかく、一応『近代』である明治時代や大正時代に、未成年の女子を掴まえて殴って自白させようとするなどという行為は、さすがにしていなかったと思うんですが……」
舞奈が驚きと困惑の入り混じった表情で、ミイの言葉に対してそう返事をする。
うーん……俺はこっちの世界の人間じゃないから良く分からんが、向こうの世界でも、そんな行為はさすがに行われていなかったなぁ……
……って、そう言えばどこかの貴族令嬢が、魔物の化けた偽物の兵士に拐かされて、連れ去られたって事件があったな。もしかして、それと同じ感じだったりする……のか?
「……ミイを捕まえて尋問――拷問した奴は、警察の人間じゃなかったんじゃないか……?」
「……言われてみると、連れて行かれたのは警察署じゃなくて病院だった。もしかして、あれは偽の警察官……だった?」
俺の推測に対してそんな風に答えてくるミイ。
「どこかの女神が転生する物語の中に、警察に捕まった主人公が、何故か病院に連れて行かれるのがありましたが……なんだかそれに似ていますね」
「あー、それってあの悪魔を合体させるゲームだよねー? 私はそこに行く前に何度も死んで大変だったよー」
「あれ、序盤が難しいんですよねぇ……。後半になる程、楽になるんですが」
舞奈とセラがそんな事を口にする。
「コンピューターで召喚術が使えるとか便利すぎるよなぁ……。コンピューターはプログラム通りの動きを必ずするから、人間と違って絶対に術式をミスる事がないし」
と、そこまで言った所で、俺は霊体とミイがポカーンとしている事に気づき、
「……ま、まあ、それについてはさておき……その偽の警察官、ミイの父親が闇の者どもと呼んでいた奴ら――錬金術師だった……というのが、大いに考えられるな」
なんて言って、大きく本題から逸れてしまった話を強引に戻した。
「でも、どうして錬金術師がミイさんを捕まえてそんな事を……?」
「そうだな……。考えられるのは、ミイの父親にミイへの憎悪を高めさせる為……とかか? もしもミイが『カナを殺した』と自白したら、ミイの父親はほぼ確実にミイに対して怒り――憎悪を抱くだろうからな」
顎に手を当てながら問いの言葉を口にした舞奈に対し、俺はそんな推測を告げる。
……とはいえ、この推測はちょっと説得力に欠けるな……
「なるほど……。でも、その為だけにそこまでの事をするものでしょうか?」
案の定、頷きつつも首を傾げる舞奈に、
「ああ、それは俺も自分で言いながら思った。……あとはまあ……ミイを最初から殺すつもりだったとか、ミイの『耐久力』を調べる為だったとか、そんな所だろうか? もっとも、どれも理由としては弱い気がするが」
と、そんな風に返す俺。
そしてそのまま、
「いくつか理由になりそうなものは思い浮かぶが、どれもイマイチなんだよなぁ……」
なんて言葉を呟くように続けた所で、
「……もしかして、ですが……。『それら全てが理由』なのでは……?」
などという推測を述べてくる舞奈。
……それら全てが理由……?
って、そうか……。なるほど、たしかにそういう考え方も出来る……な。
今回の話は、前回の話に収まらなかった部分なので、話としてはあまり進展がないんですよね……
黒志田と接触する所まで行けないかとも少し考えたのですが、会話が思ったよりも長くなってしまったので無理でした……
とまあ、そんなこんなでまた次回! 次の更新は、平時通りの間隔となりまして……5月12日(金)の予定です!




