第128話 邪悪なるもの
「ここは……森? かつての学校も山の中にあったけど……今もまだ山の中?」
外に出た所で、木々を眺めながらそんな疑問を口にするミイ。
それに対して俺は、腕を組みながら答える。
「そうだな。空から見た感じだと思いっきり山の中だったな」
「街からは結構離れていたよねー。道とかも全然なさそうだったしー」
俺はそのセラの言葉に対して「そうだな」と同意の言葉を返しつつミイの方を見て、
「昔はここへ至る道があった感じなのか?」
と、問いかけた。
それに対してミイは頷き、
「一応、狭い道はあった。車がギリギリ通れるくらいの」
なんて事を言ってきた。
……村の方には車が通れるような道の痕跡はなかった。
となると……ミイの話は、車がこの国に持ち込まれた前後の時代の話なのだろうか?
たしか、歴史の教科書――と一緒に配られた、写真や絵図が大量に載っている資料集の方に、120年くらい前……この国で使われている『元号』という名の紀年法だと明治……だったか? ともかくその頃の時代のページに、『日本に最初に持ち込まれた車』と書かれている写真が載っていたような気がするな……
そこから少し経過していると考えて……100年程度昔……か?
いや、ミイに『元号』について聞いてみれば早い話か。
俺はその事に気づいて思考を中断すると、ミイの方へと顔を向け、
「なあ、ミイが話していた内容って、げんご――」
「――ブッルゥゥゥッ!? ものすごくドス黒くて巨大な何かが放出されたブルよぉぉーッ!?」
「憎悪……。怨念……。悪意……。呪詛……。恐怖……。危険危険危険んんんっ!」
……というブルルンと霊体の叫びによって問いが遮られた。
だが、たしかにブルルンと霊体が叫んだ通り、途轍もなく邪悪な魔力――いや、霊力が時計塔全体に満ちていた。
この感じ……。向こうの世界でアンデッドの王が巣食っていた古城にそっくりだ……。放置するわけにはいかない気もするが、セラたちを遠ざける必要はあるな。
「とりあえず、この場から離れ――」
「ヲヲヲヲヲヲヲヲンンンンンンンッッッッッッ!!!!!」
再び俺の声が遮られる。
今度は昏く底冷えのする咆哮めいた声だ。
……どうやらセラたちを遠ざける時間はなさそうだ。
俺はそう判断して、即座に魔法障壁を展開する。
と、その直後、紫色と薄い青色の光が時計塔から漏れ出し始め……ドゴォンというけたたましい爆音と共に時計塔そのものが崩壊した。
「あわわわわわわわわわっ!?!?」
「なんブル!? なんブル!? なんなんブルゥゥ!?」
セラとブルルンの驚きの声と共に、崩壊した時計塔の瓦礫が俺たちの方へと飛来するが、魔法障壁によって弾かれ誰にも当たらない。
「うぎゅう……っ!?」
……訂正。
障壁の外へと不用意に出た霊体が、飛んできた何かの破片に当たって勢いよく地面に倒れ込んだ。
霊体に当たるという事は、今の破片は魔力だか霊力だかを帯びていた感じか。
まあ、この時計塔そのものが巨大な術式のひとつだと考えれば、魔力や霊力が微弱に含まれていたとしてもおかしくはないか……
と、そのタイミングで俺のスマホがメッセージの着信を告げる。
このタイミングで一体なんだ……と思いつつスマホを見ると、『黒志田確保』という実に短い文字が『かりんとう』のアイコンから送られてきていた。
言うまでもなく、それは『かりん』からのメッセージだ。
なんで『かりんとう』のアイコンなのかは謎だが。……名前が近いからか?
どうやらあっちは確保出来たようだな。
……まあ、こっちはそれどころではないが。
『話を聞こうと思いますが、とうまさん、何か聞きたい事はありますか?』
俺の名前が平仮名になっているそんなメッセージが舞奈から届くが、それに返事をしている余裕はない。
俺は『今取り込み中です』というセリフを発しながら寝ている犬のスタンプ――言動がチグハグすぎるが、そういうキャラだとかなんとか舞奈が言っていた――だけ返し、俺たちの前に姿を表したボロボロの黒い祭衣を纏い、角のある仮面を顔に付けた巨大な骸骨へと視線を向ける。
……見た目こそ全く違うが、纏っているオーラと全身にピリピリとしたものが走るこの感覚に関しては、まさに以前向こうの世界で相手をした『リッチ』や『ノーライフキング』といった最上位クラスのアンデッドにそっくりだな……
ここに来て大ボス感のある奴が登場しましたが……?
まあ、もう終盤と既に言っている通り、ここから長期戦になったりはしません。割とあっさり終わります。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新も平時通りの間隔となりまして、4月28日(金)を予定しています!




