第27話 舞奈と転移門
「い、いや、さすがにそれはっ! わ、わかった! 俺の部屋で大丈夫だ! か、片付けをするから30分くらいしてから来てくれ! 32階の端っこだ!」
とんでもない発言をしてきた舞奈に対し、俺は慌てて捲し立てるようにそう答える。
「32階の端ですね、わかりま……って、え!? さ、32階なんですか!? ず、随分とお高い良い場所に住んでいるんですね……」
心底驚いたと言わんばかりの表情でそんな風に言ってくる舞奈。
「ん? そうなのか? 俺には高いのか安いのか良く分からないんだが……」
「ええ……? 私の部屋の3倍近い家賃ですよ、そのフロア……。成伯さんには今日は色々と驚かされましたが、今のが一番驚きましたよ……」
「そ、そう……か」
あの部屋、桜満が勝手に用意した物だから、その辺は詳しく知らないんだが……どうやら結構良い値段する部屋だったらしい……。桜満にもうちょっと安い部屋で構わないと言うべきだろうか……?
などと思いつつ、閉じてしまったエレベーターのドアを再度開き、エレベーターに乗る俺。
言うまでもなく、舞奈も一緒に乗ってくる。
「ま、まあ……とりあえず、30分後にな」
「はい、わかっています。それにしても、32階はどういう眺めなのか少し楽しみです!」
それだけ言葉を交わした所でエレベーターが停止し、ドアが開く。
随分はやいな……と思ってフロア表示を見ると、7階と表示されていた。
「では、また後ほど」
と言って、エレベーターから出ていく舞奈。
舞奈は7階なのか……。同じ建物内だとはいえ、フロア的には随分と離れているな。
てな事を考えながら自分の部屋へと戻ると、とりあえず見られて困るようなものは無いので、ダンボールだけササッとどかし――魔法収納空間に押し込んで――桜満に3度目となる電話をする。
そしてあらかた用件を伝え終えた所で、30分が経過した。
程なくして、来客を知らせるインターホンの音が室内に響き渡る。
ドアを開けると、普段着に着替えたらしい舞奈の姿があった。
ケープ……のようなものが付いた上着とロングスカートという、向こうの世界の貴族令嬢が着ていてもおかしくなさそうな、そんな服だ。
「30分経ったのでやってきました!」
と、舞奈。うーん、凄くこう……ワクワクしていそうな顔だな……
実にかわいい。まさに女神だ。
……じゃなくて!
俺はアホな思考を振り払うと、舞奈をリビングルームへと案内する。
「うわぁ……やっぱりというか、凄い綺麗ですね……」
窓から見える夜景に感嘆の声を上げる舞奈。
「それは俺も昨日思った」
都心から川をひとつ越えた場所であるこの辺りは、夜でも明るいと思える程に光に満ちている。
なので、この高さからだと、その数多の光が輝きを放っている様がよく見えて非常に綺麗だったりするのだ。
……さすがにこういう景色は、向こうの世界では見られないからな……
「さすがは32階です。私の住む7階ではここまでの物は見られません」
「下に降りる手間を考えたら、7階の方が便利そうだけどな……」
舞奈の言葉にそう返す俺。
エレベーターがあるから楽といえば楽だが、それでも結構時間かかるんだよなぁ。
無論、転移すれば別だが。
「それは贅沢な悩みというものですね」
「……ま、たしかにそうだな。もっとも、移動に関して言えば、瞬時に移動出来る先を増やせれば、あまり困らないんだけどな」
「瞬時に移動……。まさかそれが……?」
俺の言葉を聞いた舞奈が、そんな風に問いかけてくる。
俺はそれに対して頷いてみせた後、俺はリビングの端にある『印』の所へと移動。
「――虚空を超えて此の地と彼の地を繋ぎし其よ、今ここに顕現せよ。《転移門》……第十六の印より第五の印」
と、呪文を詠唱してゲートを出現させた。
「これが、月城よりも先に辿り着いた理由にして手段だ」
そう言いつつゲートを抜け、その向こう側へと移動する俺。
ポカーンとしていた――無論、今回は魔法をつかったわけではなく、単に驚いて呆けているだけである――舞奈だったが、ハッと我に返ると、慌てて俺を追うようにしてゲートを抜けてくる。
「い、今のは……? そして、この森は……? どういうわけか空が明るいですが……」
見上げながらそう言ってくる舞奈に対して俺は、
「今の――これは印を刻んだ場所と場所とを繋ぐ魔法だ。そしてここは、ドイツのシュヴァルツヴァルトって呼ばれる場所だな」
と、ゲートと地面を順番に指さしながら告げた。
「ま、魔法……!? ドイツ!?」
サラッとドイツまでやってきました(何)
といった所で、本日の更新は終了です。
明日は12時に1話だけ更新しようかと思っていますので、よろしくお願いします!




