第120話 本体を狙って
「なら、咲彩と一緒に放ってくれ」
俺は鈴花の問いかけに対し、そう答える。
ひとりよりもふたりの方が効果が高いからな。
しかも鈴花のは、『アンデッドを祓う』効果もあるし。
「えーっと、ふたりで放つとなると……なるべくぴったりくっついてください」
「わかったわ」
舞奈に対し頷きながら、咲彩と背中合わせに張り付くような形となる鈴花。
「なんというか……後ろは任せた! って感じだね、これ」
「あー……たしかにそうかも?」
そんな事を話す咲彩と鈴花を見ながら、俺は周囲を見回す。
相も変わらずアンデッドが次々に現れるが、こちらの戦力は十分であり、突破されるような心配はなさそうだ。
そう思った直後、
『オノレ……。オノレ……。戦力ガ足リヌ……。強キ力ヲ……。弱キヲ捨テレバ……』
そんな声と共に、アンデッドの数が急に減少する。
「なんだ? 数が急に減った……?」
その変化に気づいた紘都がそう口にした瞬間、今までにない大きさの靄が、複数視界に入った。
「数から質に切り替えたって所かな?」
「ま、そんな所だろうな。もっとも、デカブツが出て来た所で別に倒せない相手じゃねぇから問題はねぇが……」
咲彩に対して雅樹がそう返事をした所で、
「うん、強さという面ではそうだね。でも……その大きさゆえに、攻撃の範囲が広いからね。一斉に攻撃を繰り出されたりしたら、ほぼ確実に鏡が巻き込まれる事になるよ」
と、そんな風に言う紘都。……たしかにそうだな。
「ああ、言われてみるとその通りだな……。透真――」
こちらを見ながら言葉を発する雅樹に対し、俺は頷いてみせる。
「――ああ、分かっている」
「急いで仕掛けるとしよう。準備はいいか?」
咲彩と鈴花を交互に見ながら、そう俺が問いかけると、
「バッチリブルゥッ!」
「バッチリだよっ!」
「以下同文っ!」
と、ブルルン、咲彩、鈴花の順にそんな返事が返ってきた。
「よし、なら5カウントでいくぞ! みんな、ゼロで目を閉じてくれ! 咲彩と鈴花も、魔法を発動しつつ閉じてくれよ! ……5……4――」
「「「グガァアァァァアアアァァアァァッ!!」」」
カウント中に大型のアンデッドが出現し、咆哮を発する。
しかし、それは無視だ。
「――3……2……1……ゼロッ!」
皆のアンデッドへの攻撃音が響く中、俺は発動の号令――『ゼロ』を口にした。
と同時に、咲彩と鈴花の魔法が発動。
響いていた攻撃音が止み、強烈な光が周囲を包み込む。
「「「グギィイィイィィイイイィィイィッ!!」」」
『ヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!?』
大型アンデッドの叫び、そして瞳――いや、『本体』の叫びが重なる。
無論、他の小型のアンデッドどもの叫びもそこに重なっている。
そんな中、ブルルンから追跡し続けている『本体』の位置が俺に届く。
目を閉じていても『そこにいる』というのが分かった。
「そこだっ!」
俺は魔法剣を生み出すと、それを勢いよく『そこ』へ向かって放り投げる。
魔法剣は一直線に『そこ』へと飛んでいき、そして突き刺さった。
……ブルルンから届く情報的には『動いていない』が……どうだ?
タイムラグで既に『動いてしまっている』可能性もゼロではないからな……
そんな微かな不安が頭をよぎると同時に、盛大にガラスの破砕音が鳴り響く。
それは、砕け散った鏡の音。さすがに飛翔魔法を維持したまま魔法剣を生み出して放り投げる……なんていう芸当は無理なので、飛翔魔法を解除した結果だ。
これで、ハズレだったらイチからやり直しだが……
『ガ……ッ!? アァァアァァァァァァアアァアアアァッ!?!?』
強烈な光が収まり、視界が元に戻ると同時にそんな苦悶の叫びが響く。
……どうやら、やり直しにはならなかったようだな。
どうにか閃光で怯んで動けなくなっている間に、命中してくれたようだ。
「障壁が消えたブルッ!」
「……動ける」
ブルルンと弥衣のそんな声が聞こえてくる。
見ると、破壊対象の魔法陣を覆っていた障壁と、弥衣や紡に纏わりついていた黒い靄、その双方が完全に消え去っていた。
それどころか、破壊対象の魔法陣はどれも既に壊れる寸前といった状態になっていた。
……あの瞳の『本体』を破砕した事で、術式の維持に反動が生じたのだろうか?
良く分からないが、これなら同時に壊すのは簡単というものだ。
瞳の本体を撃破した事もあり、次の話で異空間編もケリが尽く予定です。
……想定外に会話が長くなったりしなければ、ですが……
(ここまで既に想定外に長くなっていたりしますが、次は大丈夫だと思います……)
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は、明後日4月6日(木)を予定しています!




