第110話 黒き月へ
「うぅ……。落ちてくるなんて思わなかったよぉー」
「い、痛かった……? 怪我してない……?」
立ち上がるセラに対し、弥衣が申し訳なさそうな、そして心配そうな表情でそう問いかける。
「ううん。ブルルンのお陰で、ちょっと重かったくらいで、大して痛くはなかったから大丈夫」
セラはそんな風に返事をすると、ブルルンの方を向いて、
「ブルルン、防いでくれてありがとうー」
とお礼を言った。
「私も、受け止めてくれてありがとう」
セラに続く形で弥衣もそうお礼を述べる。
それに対して凹のような形のまま、
「ブッルゥ……。どういたしましてブルゥ……」
と、ヘロヘロな声で返すブルルンを、セラがギュムギュムと前後、左右、上下……という順で、繰り返し揉むような感じで押していき、元の形へと戻していく。
「ブルブルはイイブルゥ……」
なんていうブルルンの声と共に。
もしかして……ブルブルとやらは、あれの事だったりする……のか?
そんなセラたちの様子を眺めていた咲彩が、
「あれ? 元凶となった花子さんカッコ仮は?」
と、そんな事を言って周囲を見回す。
……そう言われてみると姿が見えないな? と思っていると、
「こっちでのびてんぜ」
「これまた随分と飛ばされたね」
紘都と雅樹が、部屋の隅からそんな風に言ってきた。
そちらへと顔を向けてみると、たしかに大の字になって目を回している霊体の姿がそこにはあった。
「かりん、一体なにが起きたんですか?」
「うーん、そうね……。多分だけど……花子さんカッコ仮の霊力と、形代の霊力がぶつかり合った事で、互いに弾け飛んだみたいね」
首を傾げながら問う舞奈に対し、かりんが推測を口にする。
「つまり……簡単に言うと、磁石の同極同士が近づいた時のような状態になった……って事?」
舞奈に代わる形で鈴花がそう問いかけると、
「ええ、そういう解釈で問題ないわ」
と、返しつつ頷いて見せるかりん。
なるほど。そんな現象が発生するのか……
「とりあえず……これの事は私が見ておく。だから、気にしないで月へ行ってきて」
ミイが霊体の方を見ながら指さしてそう言うと、
「うん。目を覚ましたら、しっかり叱っておくよー」
と、セラが続いた。
「そうだな……。いつまでもここに居ても仕方ないし、さっさと月へ行って、さっさと片付けてしまうとするか」
◆
「うーん……。たしかにこれは月というよりは、空に浮かんでるだけの球体だね」
「ふむ。たしかに宇宙が舞台のSFに出てくる敵の基地っぽい感じがあるね。あんなに大きくはないけど」
なんて事を鈴花と亜里沙が言うように、黒い月は近づけば近づく程、単なる空に浮かぶ塊だというのが分かる。
「……? 表面になにやら多数、波紋のようなものが急に現れましたね。なんでしょうか……?」
そんな風に言って首を傾げる紡。
……なるほど。たしかに波紋のようなものがいつのまにか現れてるな。
しかも、この感じは……あの呪いの……
「何か禍々しい霊気のような……呪いのような……そんな代物が、あの波紋を起点に膨れ上がっているわ……」
「ああ。何かが……いや、『アレ』が出て来るな」
かりんの警告に俺がそう返事をした直後、黒い月の表面から、今まで何度も見てきた『黒い手』が一斉に出現する。
「なるほど。やはりこの黒い月がウニョーンの本体だったというわけですね」
そんな風に舞奈が言うと、
「ウニョーンっていうと、なんだか力が抜けるな……」
「それは同感」
と、そんな風に返す雅樹と弥衣。
たしかになぁ……。ま、今更だけど。
などと思いつつ、
「とりあえず迎撃は皆に任せる。俺は飛行魔法の維持に専念しないといけないし、大した事は出来ない」
と告げる俺。
なにしろ、俺ひとりで大半の人間を飛ばしている状態だ。
この状態で攻撃魔法や防御魔法を使うのは、さすがに厳しいからな……
ようやく黒い月の所にまでやって来ました……。そして、SCROLL2も最終盤に突入です!
とまあ、そんな所でまた次回! 次の更新は平時通りの間隔となりまして、3月12日(日)を予定しています!




