第106話 壊すべき物と結界に触れし者
「……つまり、カナを生き返らせる手段っつーのは……」
「うん。おそらく、カナという子が死ぬ前のタイミングから死んだ後までの出来事全てを破壊して、死ぬ前の状態にまで巻き戻してしまう……とか、そんな感じかな?」
雅樹の言葉に頷きつつ、そう推測を口にする紘都。
「まさに、局地的な時間の流れの破壊って感じだね……」
「ま、かなりの『破壊の力』と、それを制御する大掛かりな術式が必要ではあるが、そのやり方であれば、まだ『死者の魂を呼び戻す』という不可能に近い事を可能に出来る望みはあるな。実際、こうして途轍もなく大掛かりな術式が組まれているわけだし」
咲彩の呟きに続く形でそんな風に言って周囲を見回す俺。
「……その為に、ここに引き摺り込んだ者を、何度も殺している……?」
「そういう事になるな。……まあ、いまだにカナが蘇っていない事を考えると、まだまだ全然足りないか、あるいは術式そのものが失敗したか……だとは思うが」
「……どっちにしても、これ以上ここへ引き摺り込ませるわけにはいかない。だから閉ざさないと。天球儀を破壊して……」
「いや、その程度では、もうこの術式は止まらないだろう。色々な場所や人間を取り込んで肥大化してしまっているようだしな」
「……なら、どうするのが……?」
そんなミイの問いかけに対し、俺は人差し指を上に向けて告げる。
「――月を壊す。それが一番早くて確実だ」
「月を……壊す?」
「ああ。正確に言うと、月に模倣したこの空間を維持する『術式の制御中枢』だな。あれさえ壊せば、この術式そのものが崩壊する。そうすればここに引き摺り込まれる者がいなくなる上に、囚われている者も助けられる」
「なるほど……。でも、どうやって壊す?」
俺の説明を聞いたミイがそんな風に問い返してくる。
「あれが月ではなく、『術式の制御中枢』であると分かった以上、あれは『空中に存在している物』でしかない。だから、空を飛んで踏み込めばいいだけだ」
「空を飛ぶ……? そんな事出来るの……?」
首を傾げてくるミイに対し、
「簡単に飛べるのよね、これが……」
「そうですね。何度も透真さんと一緒に飛んでいますし」
と、俺よりも先にそんな風に答えるかりんと舞奈。
「ボクも飛ぶというのとはちょっと違うけど、似たような事は出来るよ」
なんて事を言いつつ、ミイの目の前まで光球になって移動する咲彩。
ミイがそれに対して、少し驚いた表情を見せる。
咲彩はそんなミイに、
「まあ、浮く事は出来ないから移動し続けるか、足場に乗る必要があるけど……ね」
と言いつつ、再び光球になって天球儀の上に移動する。
「あ」
ミイがその咲彩を静止するように手を伸ばし――
「イッギャアァァアァァアアァァァアァッ!?!?」
という咲彩の悲鳴が響いた。
ん? と思って顔を向けると、バチバチとまるで放電しているかのような青いオーラに包まれ、海老反りになっている咲彩の姿があった。
あの状態で落下しないとか器用だな……などと一瞬思ってしまう俺。
「……天球儀の拘束結界に触れるとそうなる……」
そんな風に言ったミイに対し、
「ザギニイッデエェェェエエェッ!」
という何ともな声を発しながら、光球になってこちらへ戻ってくる咲彩。
「あぐぐぅ……。まだ全身がバチバチしている感じがあるぅ……」
「なるほど……。霊的なダメージを与える障壁のようなもの……か。黒い手による呪いの侵食を防ぐ魔法を付与していなかったら、もっと大ダメージだったぞ」
咲彩に対してそう告げると、
「不幸中の幸いと喜べばいいのかなぁ……。それ……」
なんて事を言ってきた。
「……怪しい物には無闇に触れるなって事だな。ダンジョンで即トラップ死するパターンだぞ」
「うぐっ、そう言われると反論出来ない……」
雅樹からため息交じりに突っ込まれた咲彩がそんな風に答えた所で、
「……天球儀を壊せそうな『力』は感じていたけど……そんな事も可能な『力』だったなんて……。ちょっと驚いた」
なんて事を言ってくるミイ。
なるほど……。どうして俺たちをここへ導くような真似をしたのか謎だったが、『力』――おそらく魔力とか霊力の類だろう――を感じとって、天球儀を壊せそうに思ったから……というのが理由だったか。
サブタイトルの意味が、だいぶアレというか……
大体なにかしらやらかす咲彩さんの事だというオチ……
とまあそれはそれとして、また次回! 次の更新は……3月2日(木)の予定です!




