第100話 ミイの話
「ミイ? ……そう言えば、花子さんのバリエーションの中には『花子さん』ではなく『みーちゃん』と呼ぶというのもありますね」
「そんなのあるんだ……」
紡の言葉に対して弥衣がそう返すと、
「他にも雪子とか花菜子なんてのもあんぜ。つーか、名前以外にもバリエーションありすぎだろって思うくらい色々あるしな」
と言って、やれやれと首を横に振る雅樹。
「その全部が影の生み出した門の擬態だって事はさすがにないと思うけど、それでも結構な数が『そうである』感じはするよね」
そんな風に咲彩が言うと、かりんが顎に手を当てながら疑問を口にする。
「もしそうだとするなら、ここにどれだけの人間が囚われているのよって話になるけど……騒ぎにならないものなのかしら?」
「そうだね……。ひとつの場所、かつ同じタイミングで一斉にいなくなったら騒ぎになるだろうけど……時間も場所もバラバラ、かつ少人数となると、単なる『行方不明事件』のひとつでしかないから、数多の事件の中に埋もれて風化してしまうだろうね」
亜里沙が腕を組みながらそんな風に言う。
たしかに、この世界は『事件』の数も『情報』の数も凄まじいからな……
小さい事件とか、あっという間に話題にならなくなってしまうし。
「――だが、その『風化してしまった事件のひとつ』が今は重要だな」
俺はそう口にしつつ、ミイの方を見る。
そして、
「……思い出したくないかもしれないが、ミイ自身の『事件』……何があって、誰にどういう理由で殺されたのかを教えてくれないか?」
と、告げた。
「私自身の……?」
「ああ。殺した上で魂を呪具に拘束して使うとか、余程の事だ。その術者の目的が分かれば、この呪具――いや、呪具を構築する術式をどうにか出来ると思う」
問いかけてくるミイに対してそんな風に答えると、
「……私にはカナという血の繋がっていない姉がいた。だけどある日、私たちの村で虐殺事件が起きた時に、カナは私を助けようとして死んでしまった……。それから村長だったカナのお父さん――私のお父さんでもあるけど――がおかしくなった。カナを生き返らせようとし始めて、怪しげな人たちと良く会うようになっていった」
なんて話をしてくるミイ。
「村……。虐殺事件……。これって、例の『地図から消された村』……?」
「……その都市伝説の元になった話かもしれないね」
鈴花の口にした疑問に対し、そう返す紘都。
「ミイさんの住んでいた村というのは……もしかして、海岸沿いの温泉地から山に入って行った場所にあったのでは?」
「その通り。そこに村があった。けど……私の魂を拘束するこの呪具の力で、なにかの術が発動した時に、村ごとこの場所に引き摺り込まれた。この学校の近くにある村が、私の住んでいた村……だったもの」
舞奈の問いかけに対して、ミイが頷きながらそう答える。
……つまり、先日訪れたあの場所にあったわけか……
「なら、この学校は一体どこにあったのかしら? あの村の跡地の広さから考えたら、さすがこんな広い学校があったとは思えないし……」
かりんがもっともな疑問を口にすると、
「この学校は、さっき言った怪しげな人たちによって作られたもの……。私はカナが死んだ後、寄宿舎付きのこの学校に入れられた。そして、あの呪具もろとも術の力でここに引き摺り込まれた」
と、そんな風に言ってくるミイ。
「その術というのは、この場所を生み出した術ですよね? どんな術なのですか?」
「謎。殺された後、ここに拘束されている状態で意識を取り戻した時には、既に術の力は発揮されていた。だから、よくわからない」
紡の問いかけに対し、ミイが首を横に振ってそう答える。
さすがにそこまでは分からないか……
「そこに関しては仕方ないブルね。ところで、その怪しげな人たちというのは何者ブル?」
いつの間にかミイの近くに移動していたブルルンがそんな風に問いかけると、ミイは少し考えてから、
「――錬金術師とか名乗ってた」
と、そう言ってきた。
……って、ここで『錬金術師』が出てくるか……
SCROLL2も100話に突入しました。
SCROLL2も結構終盤なのですが、それでもまだそこそこあります……
ここの所、ギャグっぽい会話が続いていましたが、今回はシリアス(?)な話でした。
(そういう会話を挟む余地がなかったともいいますが……)
とまあそんなこんなでまた次回!
次の更新も、平時通りの間隔となりまして……2月17日(金)を予定しています!
※追記
誤字を修正しました。




