第98話 怪談と分体
「怪談……。学校の七不思議とか……それこそ花子さんとかそういうの?」
セラが首を傾げながら、舞奈に対してそんな問いの言葉を投げかける。
「はい、そういうのです。というか……花子さんカッコ仮――いえ、どこかの学校に送られた分体を通して影が生み出したという門の擬態。それが『花子さんのエピソード』の幾つかになったのではないか……と、私は考えています」
「ふむ……。言われてみると花子さんのエピソードの中には『手が現れる』『神隠しに遭う』といったような、一風変わったものもあるね」
舞奈の発言に対し、顎に手を当てながらそう返す亜里沙。
「花子さんのエピソード以外にも、『鏡に吸い込まれる』『開かずの扉が開いていて入ると戻れなくなる』『あるはずのない階段があって異次元に続いている』といったものは、怪談話のエピソードとして良くあるものですね」
そんな風に言う紡に続く形で、
「そう。今言った通り、鏡とかドアとか階段とか擬態は色々ある」
と告げてくる青い半透明の霊体。
「階段もあるってよ」
「フシャーッ!」
雅樹のちょっとしたからかいの言葉に対して、何故か怒った猫のマネをする咲彩。
そんなふたりを横目に俺は、
「そういった物が、『ここ』へ繋がる影が生み出した門の擬態だというわけだな」
と言って青い半透明の霊体の方を見る。
「その通り。あの黒い月がこの場所を生み出した全ての元凶。そして……私はここに人間を引き摺り込み、血を奪い続ける『モノ』を生み出した元凶」
「……この流れで自分から自分を元凶とか言い出すのって、大体あれだよね。――自分を殺せって言い出すパターンだよね」
青い半透明の霊体の発言に対し、咲彩が肩をすくめながら呆れた口調でそう返す。
「……話が早い。ある意味その通り。この天球儀を模した呪具を破壊すれば、影が私の分体を通じて門の擬態を生み出す事はなくなる」
「……少し待ってください。――分体が各地に送り込まれているのにも関わらず、ここに来てしまう人の数というのは圧倒的に少ない状態ですよね? それは貴方が……貴方の分体が、門を抑え込んでいる為……なのではないですか?」
「それは……そう。とはいえ、抑え込めない場合もある。それと、記憶が上手く引き継がれていない分体だと『門』の存在を認識していないから無理……。あと……呪術とか魔術みたいなので『弄られて』歪められた『分体』も、無理」
舞奈の問いかけに対し、そう答えて霊体の方を見る青い半透明の霊体。
なるほど、こっちの霊体は後者――呪術だか魔術だかで弄られて、歪められた存在というわけか。
「……そう……いう……事。……なるほど、良くわかった……よ。私は、元から……過去なんてなかった……。そして、その記憶すら……『何者か』によって……奪われていた……」
霊体がそんな風に言いながら青い半透明の霊体へと顔を向け、問いの言葉を続ける。
「貴方を消したら……私も消える……の?」
「貴方は私。私が消えれば、貴方も消える。というより……分体全てが消える。それはどうにも出来ない……」
「そう……。なら……貴方を消して……私も消える……。それでいい……」
青い半透明の霊体の返答を聞いた霊体が、そんな風に返す。
しかしその直後に舞奈が、
「いいえ、そんなどっかのラスボスみたいなノリは却下です。貴方もそっちの『本体』も、消すつもりはありませんよ! 透真さんが!」
などと言って俺の方を見てくる。……ちょっと待て。
「ブル、そこでご主人に振るとちょっと格好悪いブルよ……?」
俺の代わりにブルルンがそんな突っ込みを入れると、舞奈が恥ずかしそうに顔を赤くしながら、
「あ、う……。そ、そう言われましても、その……私の分析的に私には無理で、透真さんには可能だと推測出来たもので……っ!」
なんて言ってきた。
俺がそれに対して肩をすくめながら、
「うんまあ別にいいけどな……。実際、間違いではないし……」
と返した所で、かりんが顎に手を当てながら問いかけてくる。
「ふぅん? そんな言い方をするって事は、どうにか出来るって事かしら?」
「ああ、概ね状況――いや、状態というべきか――は把握した。もう少し詳しく話を聞けば、多分大丈夫だろう」
かりんに対してそんな風に返すと、俺は霊体の方をへと顔を向け、そして言葉を続ける。
「というか……だ。そもそもの話として、お前はあっちを消したとしても消えないぞ?」
「「……ふへ?」」
霊体2体が同時に目をぱちくりさせ、そんな素っ頓狂な声を上げた。
……なんというか、まさに本体と分体って感じの反応だな……
どっかのラスボスというのはまあ……あれですね。5番目の最後の幻想的な……
とまあそんな所で、また次回!
次の更新は……明後日、2月11日(土)を予定しています!




