第90話 封印の前にて
「――あれがその『封印』よ」
動く壁によって隠された部屋――その一番奥にある装飾の施された鉄の扉を指差しながら、そう告げてくるかりん。
隠し部屋の中を見回してみると、そこには亜里沙、紘都、セラ、そして霊体がおり、部屋の中をあれこれと探っていた。
……霊体は封印を回避するように壁をすり抜けようとして弾かれているな……。どうやら壁にも封印――正確には封印が生み出す一種の障壁――の効果が及んでいるようだ。
そんな事を考えながら、
「セラたちの姿が見えないと思ったら、ここにいたのか」
と声をかける俺。
「トー兄様! こっちに来たんだね! ……って、その後ろにいるふたりは……誰? ブルルンが言っていた人たち?」
俺の存在に気づいたセラがそう言って、こてんと小首を傾げる。
「あ、うん。紡と弥衣だね。こっちの紡は私の友達で、そっちの弥衣は――」
「――ここに来た直後に……上から降ってきた子……?」
咲彩の説明に被せるようにして、そんな風に言う霊体。
「正解。……短い槍で突き刺された後、蹴り落された」
「そ……そう……なの? え、えと……その……変な聞き方して……ごめん……なさい……」
頭を下げて謝る霊体に対し、首を横に振り、
「謝らなくても大丈夫。私は気にしてない」
と、そう返す弥衣。
「――うーん……。ブルルンから軽く説明があったとは思うが、ブルルンは実際に見ているわけじゃないし、ここらで俺から詳細を話するとするか。全員いる事だし」
俺はそう切り出し、ここまでの出来事について改めて説明する事にした。
舞奈たちにも説明はしているが、軽くだったしな。
◆
「ふーむ、なるほど……。血のプールに謎の術式……か。それはたしかに気になる代物だね」
俺の説明を聞き終えた所で、顎に手を当てながらそんな風に言ってくる亜里沙。
それに続くようにして、
「それと、その術式――そしてこの空間を生み出した『何者か』の『目的』が依然として不明なままだっていうのもあるよね」
「あと、紡は見つける事が出来たけど……まだ美香と楓を見つけられていないんだよね……」
と告げてくる紘都と咲彩。
「この場所、もの凄い広そうだから、この空間に囚われてしまっている人全てを探し出すのは、ちょーっと大変だよね……」
そう言ってくる鈴花に、霊体がため息交じりに返事をする。
「うん……そうだね……。この学校だけでも……凄い広いし……」
「あ、そうだ。光球化での高速移動を連続すれば……」
「いや、あれって直線移動だろ? 森の中とか屋内は厳しくねぇか?」
「むぅ、たしかに……入り組んでいる場所や障害物の多い場所を進むのは難しいかも……」
咲彩と雅樹のそんな会話を聞いていた舞奈が、
「でしたら私が大ジャンプで……」
なんて事を言った。
……いや、大ジャンプしても……と言おうとした所で、
「その程度ならブルルンが飛んだ方が見える範囲広いでしょうに……。単に化け物どもにパンツを見せるだけに終わるわよ」
と、呆れ気味にかりんが返す。
まったくもってその通りではあるが、その言い回しはちょっと……。ほら、舞奈が赤面しながら憤慨してるし……なんて事を心の中でだけ呟くと、俺は腕を組みながら推測を述べる。
「――おそらくではあるが……駆け回らずとも『外への繋がり』を確立――固定化する事ができれば、この空間を崩壊させるだけで、ここに囚われている全員を同時に外に出す事が出来る……というか、自動的に外に放り出される形になる……と思う」
「え!? そうなの!?」
驚きの表情をしながらそう問いかけてくる咲彩に対して頷き、
「ああ。無論、現時点では不確定要素がないわけじゃないし、絶対とは言えないが……」
と、そう答える俺。
「でも、限りなく絶対に近いブルね。むしろ一番厄介なのは、この空間を生成して維持している『中核となる何か』を見つけ出さないといけない事だとブルルンは思うブル」
ブルルンの言葉を聞きながら、限りなく絶対に近いって妙な言い回しだな……なんて事を考えていると、舞奈が問いの言葉を発しながら首を傾げる。
「えっと……『中核となる何か』……ですか?」
まあ、中核となる何かとだけ言われてもそうなるよな。
でも、うーん……。どう説明したものか……
想定より長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
そして、残りの部分もかなりの量になってしまっている為、ちょっと調整しようと思います……
というわけで、次の更新ですが……明後日1月24日(火)を予定しています!




