第88話 時計塔へ
「――さて……と。撮影も終わったし、そろそろ時計塔の方へ移動するとしよう。ブルルン、向こうに戻って皆に伝えておいてくれないか」
「了解ブルゥー!」
身体の上半分だけを前に倒す『頷く』動作をしながらそう言うと、即座にセラたちの方へと転移して戻っていくブルルン。
「あれ、ちょっと欲しい」
それを見送りながらそんな事を言ってこちらを見てくる弥衣。
「たしかに居たら便利な気はするけど、使い魔を動かすのは魔力だけじゃなくて資質も必要だから難しいなぁ……」
「むぅ、残念……」
俺の返答に、弥衣が残念そうな表情をする。
そういえば……使い魔を操るような資質を持つ人間にはいまだに出会っていないな。
こっちの世界の人間は、大体強力な資質を持っていて驚かされるけど、そういう系統に関しては不得意な感じなんだよなぁ。うーん……なんとも不思議だ。
と、そんな事を思いつつブルルンの居る位置――つまり、時計塔のある場所――へ向かって歩いていると、
「ところで……なんだけど、私たちが校舎内で一掃した奴らってさ、そろそろ復活しててもいい頃だよね?」
なんて事を咲彩が言った。
「ああ、そういやあいつらって倒しても復活するんだったな。すっかり忘れていたぜ」
腕を組みながらそんな風に雅樹が返事をすると、その会話を聞いていた紡が、驚きの表情を見せながら問いの言葉を口にする。
「えっ!? あの化け物たちも復活するんですか?」
「そうなんだよね。まあ、大した強さじゃないからまた出てきても困りはしないけど……あのデカブツだけは面倒だよねぇ」
そう言ってやれやれと首を横に振る咲彩。
たしかに1体だけならいいが、複数体あのデカいのが現れたら面倒だな……
と思いつつ、周囲を探る俺。
「――とりあえず、周囲に奴らの気配も霊気も感じな……」
そこまで言った所で俺は遠くから霊気を感じ取り、言葉を切る。
場所的には俺たちと接触する事はなさそうだが……
「……いや、僅かにブルルンの居る方から感じるな。もしかして向こうで交戦中だったりする……のか?」
そう口にしながらブルルンへと問いかける俺。
すると、
『デカいのが2体とその他諸々のザコが多数現れたブルッ! 今、セラ以外の全員で相手をしている所ブルよ! あ、セラはブルルンが守るブル! 安心するブルッ!』
なんていう返答が俺の耳――いや脳内に届く。
「――やっぱり向こうで化け物たちと交戦している最中のようだ。しかもデカブツが2体いるらしい」
「マジかよ!? それなら、急いで向かうとしようぜ!」
俺の言葉を聞き、雅樹がそんな風に言ってきた。
それに対し、俺は顎に手を当てながら告げる。
「向こうに着く頃には一掃し終わっていそうな気もするが……まあ、とりあえず走るとするか」
と。
……
…………
………………
そして、ある意味予想通りというべきか、
「――あ、あの化け物たちの群れでしたら、もう一掃し終わりましたよ」
なんて事を、時計塔のある校舎の前へと到着した所で舞奈から告げられた。
しかし、咲彩にとっては想定外だったらしく、
「ええっ!? 倒すの早すぎじゃない!? 私の出番がないんだけど!」
と、驚きの表情で声を大にして言った。
そしてそれに対し、鈴花が頬を人差し指でなぞりながら、
「そう言われても……デカいのが2体混ざっていたけど、大した強さじゃなかったし」
などと少し呆れ気味に答える。
「――いや、3体目が来たぞ」
俺がそう告げながら校舎の屋根へと顔を向けると、舞奈たちもそれに続くようにしてそちらへと顔を向けた。
「い、いつの間にあんな所に……!?」
屋根の上に立つデカブツの存在に驚く鈴花に続く形で、
「良かったじゃないか、出番が残ってて」
なんて事を肩をすくめながら言う雅樹。
「なんだかちょっと想定と違うけど……でもまあ、あれは私が相手するね!」
そんな風に言いながらも、光球になって屋根の上へと移動する咲彩。
だが、それと同時に雄叫びを上げてダイブしてくるデカブツ。
そして響く、
「ちょっとぉぉっ!? なんでそこで下行くのさぁぁっ!?」
という咲彩の声。
その光景を見ながら、
「……どうにもしまらない」
「まあ……咲彩だしな」
なんて事を呟くように言う弥衣と雅樹だった。
移動中の会話シーン、実はもう少し長かったのですが、展開のテンポが悪かったので大幅に削りました。今話内で時計塔へ辿り着かないような気がしてきましたもので……
とまあそれはそれとしてまた次回! 次の更新ですが……半分以上出来ているので、明後日1月19日(木)でいけそうな感じです。
ただ、もしかしたらいつもの12時更新よりも、少し遅くなってしまうかもしれません……




