第86話 光の剣とプールの謎
俺は咲彩にあのデカブツ……ふたつ首の大蛇を倒させるべく、落下中の咲彩――というか、咲彩の持つ魔導具に対して魔力を流す。
「――光の剣を強化した! もう一度やれ!」
魔法で声量を強化してそう叫ぶと、それを耳にした咲彩が再び光球となって上昇。
先ほどと同じ位置へと移動した後、光の剣を生み出す。
それは先程の剣の10倍近い長さを持つ長大な代物だ。
それに対して脅威を悟ったのか、ふたつ首の大蛇が咆哮。
それぞれ左と右から挟み込むような形で、咲彩に食らいつこうと首を動かす。
しかし、咲彩はそれに対して回避行動を取らない。取る必要がないと考えたのだろう。
「てりゃぁあぁぁぁあああぁぁぁっ!」
裂帛の気合と共に横薙ぎに振るわれた光の剣は、白い軌跡を描きつつふたつ首の大蛇を横断。
そこから少し遅れてふたつの大蛇の首――正確には頭部――がほぼ同時に横へとスライドし、そのまま血のプールへと落下した。
……当然ながら、そんな大きな物が液体――血の上に落ちれば……
「うひゃあっ!?」
激しい水飛沫ならぬ血飛沫が発生し、咲彩の全身を血で染め上げた。
「まあそうなりますよね……」
「だなぁ……。なんで光の玉になって離脱しなかったんだ……」
ちょっと呆れ気味にそんな事を口にする紡と雅樹。
ちなみにこちらへも『血の波』が押し寄せてきたが、俺がしっかりと障壁で防いだので、誰も血まみれになっていたりはしない。
「にしても、一撃かよ……。とんでもねぇな……。つか、長すぎだろあれ……」
血のプールから突き出したまま残っていた部分がゆっくりと黒い灰のようになって霧散していくのを見ながら呟くように言った雅樹に、
「まあ、極限まで強化したからな。あの長さで斬れない程の巨体だったらどうにもならないが、今回は幸いにもあれよりも短かったし」
と返す俺。
「……うぅ、一刀両断する所までは気分最高だったけど、返り血で気分最低って感じだよ……」
戻ってきた咲彩がそんな事を言いながらため息をつく。
「最後に油断したのはあれですけど、でも、今回はしっかりと『勇者感』がありましたよ」
「まあたしかに空中で横薙ぎするあたりは『それっぽかった』な」
「うん、かっこよかった。返り血も悪くはない」
「なに、接近戦をしたら返り血なんて浴びて当然だからな。それはそれで強者――勇者の証というものだ」
そんな感じで、俺たちがフォローするように褒め言葉を投げかけると、
「そ、そうかな? ま、まあ、返り血を浴びるのも接近戦の醍醐味だよね!」
などと言って、目に見えてテンションが上がる咲彩。
「ああ。だが、そのままというのもアレだし、とりあえず……」
そう言って指をパチンと鳴らす俺。
と、その直後、白い靄が咲彩を包み隠すような形で生み出される。
「わっ!? な、何これ? な、なんだか妙に冷た……あ、いや、温かくなった……?」
靄に包まれた咲彩から、そんな声が聞こえてくる。
まあそういう感想になるよなと思いながら、
「それは洗浄の魔法だ。洗濯したり風呂に入ったり出来ない状況の時に使う奴でな、返り血もきっちりと洗浄してくれるぞ」
と、そう答える。
「というわけで、洗浄が終わるまで少し待つとしよう」
そんな風に皆に告げた所で、うーんうーん言って唸っている紡が目に入る。
「……紡? 一体何をそんなに考え込んでいるんだ?」
「あ、いえ、あの様な巨体がどうやってこのプールに潜んでいたのかと思いまして……。どう考えてもプールの大きさと合っていないですし……」
問いかけに対してそう返してくる紡。
「あー……。言われてみっとたしかに不自然だな」
雅樹がそう同意すると、それに続く形で弥衣が頷く。
俺はそれに対して、
「多分だが、どこかに召喚魔法陣とかが存在してて、誰かが近づくと血を触媒に召喚されるんじゃないか? 倒した後、黒い灰のようになって霧散していったのも、召喚状態が解除されたから……と考えると納得出来るしな」
と、そんな風に推測を述べつつプールサイドを見回す。
……だが、周囲に怪しい所はない。
となると……召喚魔法陣の類はプールの底……か?
またもや思った以上に長くなったので、一旦ここで区切りました……
というわけでまた次回! 次の話はほぼ完成している事もあり、明後日1月14日(土)の更新を予定しています!




