第85話 血のプールに潜むモノ
「うわぁ……。血っぽい水かと思ったら、本当に血だね……これ」
「だな。臭いがシャレにならねぇぜ……」
咲彩と雅樹が鼻を手で覆いながらプールを見て、そんな感想を口にする。
向こうの世界で良く嗅いだ臭いだな……
魔王の軍勢との大規模な戦闘の後は大体こんな感じだったものだ……
なんて事を思いつつ俺は、
「とりあえず消臭するか。――よっと」
と言って、汚染された空気を浄化する魔法――基本的には毒霧とか瘴気とかを継続的に吹き飛ばして寄せ付けないようにする為に使う魔法だが、臭気を継続的に吹き飛ばすのにも使える――を発動させ、血の臭いを吹き飛ばす。
「臭いが消えた……」
「ですね……。というか、清涼な空気の流れを感じるような……。このような魔法もあるのですね」
弥衣の呟きに頷きながらそう言って俺の方を見てくる紡。
「ああ。本来は毒霧とか瘴気に対して使うものなんだがな」
そんな風に答えると、紡に代わる形で、
「それ、ドラゴンとかに毒のブレスを吐かれても大丈夫って事?」
と、問いかけてくる咲彩。
「そうだな。毒のブレスも霧状の毒素を放射するタイプなら無効化出来るな。毒の液体を放射するタイプの――それを『ブレス』と呼んでいいのかは怪しいが――だと、無効化にするのはちょっと難しいが」
俺は首を縦に振って肯定し、そう説明する。
実際、向こうの世界では、そういう使い方を何度もしたしなぁ……
「でも、出来ればそのようなブレスを吐く存在とは出会いたくありませんね」
「同感……。ドラゴンとか出て来たら怖すぎる……」
紡と咲彩がそう口にした所で、急にゴゴゴという音が響き渡り、血のプールの中心部に渦が生じ始める。
……うん? なんだ?
と思った次の瞬間、校舎の3階まで届きそうな程の巨体を持つ、全身を血の色で染めたふたつ首の大蛇が姿を現す。
「ふたりが変なフラグ立てるから、それっぽいのが出てきたよぉ!?」
「ええっ!? もとを正せば、咲彩ちゃんが毒のブレスとか言うからでは!?」
咲彩と紡が、そんな驚き……? の声を上げた直後、両方の大蛇の口がパカッと開く。
「って、ブレスっぽいのが来そうだぞ!?」
雅樹がそう叫ぶとほぼ同時に、左の大蛇からは黄色味を帯びた緑のブレスが、右の大蛇からは熱気を帯びた橙色のブレスが、それぞれ放たれた。
「おっと、これなら問題ないな」
障壁魔法を発動しようと構えていた俺だったが、魔法の発動を中断してそう告げた。
なぜなら、ふたつのブレスはどちらもこちらへと届く事なく霧散したからだ。
見た目――色からだと、どんな効果があるのか良く分からないが、まあ……肉体に何らかの異常が生じるのは間違いないだろうから、喰らわないに越したことはないな。
「おお……。凄い。本当にブレスが消し飛んでる……」
弥衣がそんな感嘆の声を上げた所で、大蛇はブレスが無駄だと判断したのか放射を停止した。
そして、
『ルヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲンンンッッ!!』
と、咆哮。空気が震える。
「今度は何をしてくるつもりだ?」
そう俺が呟くように言った直後、プールの水――いや、プールの血が噴水のように幾つも噴き上がったかと思うと、それらが空中で剣や槍のような形へと変化。こちらへと一斉に飛んでくる。
「そう来たか!」
俺は先程発動しようとしていた障壁魔法を改めて発動。
金色に輝くドーム状の障壁が俺らの周囲に展開され、迫ってきた血の剣や槍を防ぐ。
……が、次々に飛んでくる為、こちらから攻撃する余裕がない。
俺ひとりなら回避しつつ攻撃魔法を叩き込むんだが……
と、そう思った瞬間、咲彩が光球となって障壁から飛び出す。
光球は血の剣や槍を掻い潜り、そのまま大蛇のふたつの首の間を通り抜けた。
そして、大蛇の後ろへと到達した咲彩が、そこから光の剣を横薙ぎに振るう。
左右の大蛇の首が少し斬り裂かれた。
しかし、かすり傷程度だからか、大蛇は何も反応しない。
さすがに大蛇の体躯に対して、剣の長さが足りてなさすぎるか……
大蛇からしたら、今のは薄皮一枚剥がされた程度だろうし。
だが、それで終わらせはしない。
そう……。長さが足りないのなら足りるようにすればいいだけの話だ。
折角だし、図書室での戦闘では物足りなさそうだった咲彩に、今回は『バカでかいエモノ』を倒させてやるとしようじゃないか。
なんとかPCがもった為、無事今回も更新出来ました……
次回は新環境から更新する予定なので、大丈夫なはずです。
というわけで次の更新ですが、次の話は半分以上出来てはいるものの、新環境の構築の為に1日必要な為、更新は平時通りの間隔となりまして、1月12日(木)を予定しています。
ただ、新環境の構築で問題が生じた場合などは1日遅れる可能性があります……
それと、咲彩のイメージ絵ですが……今週末~来週中あたりで出せたら出そうと思っています。




