第82話 時の感覚と認識
少女が落ち着くのを待ってから色々と尋ねると、少女は桜川弥衣という名で、県東の海岸沿いにある大きな街だと判明した。
「……どの辺だ?」
「んー、さっきの夕食で雅樹が食べたバラ焼きの発祥の地……と言われている街から近いね。っていうか、ここに来る途中に通って来なかった?」
首を傾げる雅樹にそう返す咲彩。
「ああ、新幹線が通過した駅がそんな名前だったな」
顎に手を当てながら俺がそう告げると、
「あー……そうか。あそこって、停車しないのもあるんだっけね」
「北海道まで行くのとかは停まりませんね」
と、咲彩と紡。
「まあ、出発して3駅だったしな。1駅の間がめちゃくちゃ長かったが」
「うん、それはボクもこっちに来る時に思ったね」
咲彩と雅樹がそんな事を言った所で、
「……え? 待って。新幹線……? 北海道? 3駅? 新幹線、こっちの方まで……来てない……ような? 隣の県まで……じゃ?」
なんて事を、意味が分からないと言わんばかりの困惑の表情で口にする弥衣。
「えっと……? たしかに昔はそうでしたけど、今は北海道まで繋がっていますよ……?」
「……む、昔? 今?」
紡の返答に、弥衣が更に困惑――いや、混乱する。
「……うん? もしかして、そのくらい昔からここに……?」
「ここ、なんというか……時間の感覚がおかしくなるんですよね。お腹も減りませんし、眠くもなりませんし……。もしかしたら時の流れが外と違うのかもしれませんね」
呟いた咲彩に続いてそんな風に言う紡。
「なるほど、たしかにその可能性はあるな……」
俺は頷いて同意すると、弥衣の方を向いて問いかける。
「あー……この場所に来る前に西暦何年だったか覚えているか?」
「え? ……たしか、1999年」
そう弥衣が口にすると、
「ちょちょっ!? そ、それ、20年以上前なんだけど!?」
「新幹線がこっちまで来るようになる前ですね、確実に」
と、驚きの声を上げる咲彩と、逆に冷静に首を縦に振って納得する紡。
うーん……。まさかそんな昔だったとは……と思っていると、
「世紀末か。たしか……7の月に恐怖の大王が降ってくるとか予言で指し示されていた年だったよな」
「そういえば、そんなのあったね。アン……グリモア?」
「アンゴルモアですね。グリモアじゃ魔導書じゃないですか」
「そ、そうだね。ゴルだったね。ゴルゴル」
「……その言い方だと、何だかやべぇ実みたいだぞ……」
なんて事を話す雅樹、咲彩、そして紡の3人。
……そういえばかなり昔の、医師でもあった占星術師が書いたという予言の書とやらを前に見たな。
実際にその恐怖の大王とやらが現れたのかどうかは知らないが、もし現れていたとしても、歴史に記されていない事を考えると、表舞台に出て来る前にひっそりと倒されたか封印されたかしたんだろう。
……というか、もしかして……だが、その恐怖の大王というのは、あの破壊神の事だったりする……のか?
と、そんな思考を巡らせつつ弥衣の方を見ると、弥衣はポカーンとした顔をして硬直していた。……まあ、そうなるよな。
俺は頬を掻きながら、雅樹たちの会話の件は一旦横に置いておき、弥衣に対して説明する事にした――
SCROLL1.5のラストとSCROLL2の冒頭で鉄道の話をしていましたが、なんであんな会話をしていたのかというと、今回の話での説明を短縮する為だったりします…… (本当にその為だけだったりするのですが、ここで説明会話をするよりいいかなと)
そして、今ではほぼ風化してしまった某大予言の話が登場しましたが……?
といった所でまた次回! そして次の更新ですが、年始の予定都合があるものの平時通りの間隔で更新が可能そうな為、1月5日(木)の更新を予定しています!(さすがに明後日の更新というのは無理でした……)
それはそれとして……皆様、今年もよろしくお願いいたします!
今年はこの章(SCROLL2)が終了し、次の章(SCROLL3)に入る年になると思います! 次の舞台は、西の方……でしょうか?
※追記
誤字を修正しました。




