第79話 アイアンクロー
「……相変わらず紡って、『演技』が苦手だよねぇ……。しかも、私じゃなくて魔法を褒めちゃってるし……。いやまあ、褒めてくれようとした事自体は嬉しいけど」
と、今度は咲彩がやれやれと首を横に振りながら紡に対して突っ込みをいれる。
「うぐ……っ! ま、まあ、いいじゃないですか……っ! そ、それよりも、あそこへ行ってみましょう!」
そんな風にちょっと顔を赤くしながら言う紡に、
「ま、そうだな。すぐに行くとするか」
と告げて、紡に浮遊魔法を使う俺。
「わわわっ! う、浮いてます!? 私、浮いてますよ!? ど、どうして!?」
「ああすまん、先に言うべきだったな。浮遊魔法――というか飛翔魔法で浮かせているんだ」
「え? そ、そうなん……ですか? で、ですけど……どうして?」
俺の説明に落ち着きを取り戻しつつ、もっともな疑問の声を投げかけてくる紡。
それに対して俺が答えるよりも先に、
「そりゃもちろん、ここから飛び降りる為だよ」
と、そんな風に咲彩がサラッと言って窓から飛び出す。
そして即座に咲彩の姿が光球へと変わり、地上に向かって落下するよりも早いスピードで飛翔していった。
「え? え? な、なんですか? あれ」
浮きながら咲彩の姿を目で追っていた紡が困惑しつつ問うと、
「咲彩の魔法だな。つーか、視界の範囲内なら瞬時に移動出来るとか便利すぎだろ。っと、咲彩を放っておくと色んな意味で危険だから先に行くぜ」
なんて答えながら普通に飛び降りていく雅樹。
こっちは、舞奈と同じく落下速度を緩やかにする魔法――『メフォラディ』が使えるので、それを使って着地する感じだな。
「ま、魔法ってやっぱり凄いですね……。私も使えたりするんでしょうか……?」
と、そんな風に言ってくる紡。
なんだかんだで『魔法を使いたい』と思うあたり、紡も根っこの部分は咲彩ほどではないにしても、やっぱりオカルトマニアって感じだなぁ……
まあ、こういう状況下では、そのくらいの方が良いっちゃ良いが。
……と、そんな風に思いつつ、
「そうだなぁ……。使えるかもしれないし使えないかもしれないとしか言えないな。こればっかりは資質次第なもんでな。――ま、とりあえず今は、俺の魔法で我慢してくれ」
と返し、紡を引っ張る感じで窓の外へと飛び出す俺。
「わわっ! ほ、本当に空中に浮いています……っ! 私を助けに来た時も、この魔法を使ったんですか?」
「ああ、その通りだ。……って、咲彩は何をしているんだ……?」
俺は紡の問いかけに答えつつ、既に下にいる咲彩を見てちょっと呆れる。
「え、えーっと……。光の玉になりながら、物凄い速さで雅樹さんの周囲を飛び回っていますね……」
「しかも、時々雅樹の事をつついているな……」
「……咲彩ちゃん、普段から割と精神年齢が低い所がありますけど、今日はいつもにも増して精神年齢が低いような……?」
そんな事を呆れ気味に言いながらふたりの様子を眺める紡。
「雅樹がいるから……か?」
「そうかもしれませんね。なにしろ『ずっと会いたかった人に会えた』わけですし。う、うーん……いわゆる『好きな人についイタズラしたくなる』……という感じなんでしょうか? まあでも……ある意味、咲彩ちゃんらしい気もします」
「そう……なのか?」
紡の言葉に首を傾げた所で、雅樹が光球状態の咲彩をその手で捕まえる所が目に入った。
「あれって手で捕まえられるものだったのか……。何気に初めて知ったな……」
捕まえられた咲彩はというと、強制的に光球状態から元に姿に戻された。しかも、頭を掴まれた形の状態で。
うーん……なるほど。どうなるのかと思っていたが、あんな風になるのか。
「あ、あれは伝説のアイアンクロー! 初めてこの目で直に見ました……!」
雅樹に頭を鷲掴みにされている咲彩を見ながら、何故か興奮気味にそんな事を言う紡。
……アイアンクロー? 鍛え抜かれた肉体を武器に使うタイプの戦士が腕に付けて使う武器がそんな名前だったような……
でも、あれで鷲掴みには出来ないよなぁ……? この世界――というか、この国特有の言い回しなんだろうか? まあ、後で調べてみるか。
と、そんな事を思っていると、
「あぎゃあぁぁぁぁぁっ! 痛いっ! 痛いからっ! ギブギブ、ギブアアァァァァァ!」
という咲彩の悲鳴が響いた。
「えっと……。自業自得としか言いようがありませんね、あれは……」
雅樹にこめかみを指で押される咲彩の姿を見ながらため息まじりにそんな事を呟く紡。
それに対し「そう、だな……」と、呆れつつ同意する俺だった――
一応補足すると、透真の頭に浮かんだ『アイアンクロー』は、いわゆる手に嵌めて使う爪系武器の方です。
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は……明後日12月29日(木)を予定しています!




