第76話 紡の記憶力
「――というわけで、ボクも魔法を使えるってわけさ。で、その力でデカブツを含めた化け物どもの群れを一掃し終えた所に、紡と透真が戻ってきたって感じだね」
俺の代わりに説明をした咲彩がそう締めくくると、
「な、なるほど……そ、そうだったんですね。……でも、たしかに思い出してみると、『あのボスも含めて化け物どもは一掃』とか言っていましたね」
と、そんな風に言って口元に人差し指を添える紡。
「一瞬の発言なのに良く覚えてるな……」
「あ、えっと、その……私、そこそこ記憶力は良い方なものでして……」
雅樹の呟くような言葉に対し、紡がそう返事をすると、
「いやいや、紡の記憶力は凄まじいから! ボク自身が借りたまま忘れていた本とかも覚えてて、しっかり取り立てに来るし!」
なんて事を言う咲彩。
「いや、それは忘れるなよ……」
「大丈夫! 今度からは雅樹が覚えているから忘れないよ!」
「なんで俺頼りなんだよ!?」
「ずっと料理を奢り続けて来たから?」
「あれは奢りだったのかよ!? どう考えてもメニューにない料理だったぞ!?」
そんな話をし始める咲彩と雅樹。
……おーい、紡が置いてきぼりになってポカーンとしているぞ……
いやまあ、俺も置いてきぼりだけど……と思いつつ、紡に声をかける。
「……あー、えっと……。なんというか……すまんな。このふたり、一緒にいると大体こんな感じなんだ」
「あ、い、いえ、お気になさらないでください。……というか、あの方が咲彩がずっと言っていた幼馴染さんなんですね」
「ああそういう事だ。……って、ずっと言っていた?」
「あ、はい。それはもう話の内容を全部思い出せるくらい、何度も何度も話していましたよ。例えば――」
俺の疑問に対し、紡がそう返してきた所で、
「ストーップ! それ以上はストーップ! どこかの勇者みたいに、深く思い出したりしたら駄目だからね!?」
と、話に割り込んで紡を静止する咲彩。
「どこかの勇者ってなんだ……?」
「昔のRPGに『町の人の会話を覚えておいて後で思い出せるシステム』があってな……」
俺の疑問にそんな風に説明してくる雅樹。
「……ああなるほど。理解した」
「いやぁ……紡って、最初の町の人の会話をラスダンで思い出せそうなくらいの記憶力があるし……」
頷く俺に続くようにそう呟くように咲彩が言う。
それを聞いた紡はというと、
「さ、さすがにそんな昔の会話は思い出せない……よ?」
などと、なにやら最後に疑問符が付くような言い回しで返事をした。
う、うーん……。なんだか、かなり昔の会話でも覚えている物がありそうな感じだな……
もしかして焼却炉の話を覚えていたのも、その記憶力のお陰なのだろうか?
と、そんな事を考えていると、雅樹が俺の方へと顔を向け、問いかけてくる。
「……んで? どうするよ? 一体、紘都たちの方に合流するか?」
「いや、そのまま焼却炉を探して貰おうと思う。あっちも迎撃が終わったみたいだし、二手に分かれて探した方が効率が良いしな」
「うん? 迎撃が終わった? どうやってそれを知……って、ああブルルンか」
俺の発言に対して首を傾げた雅樹だったが、すぐにブルルンの事に思い至ったらしく、そんな風に言ってくる。
「そう言われてみると、ブルルンがいないね」
「ああ。セラの所にいるからな。そうしておいた方が、向こうとの連絡が取りやすいってのもあるし」
咲彩に対してそう答えると、咲彩は納得の表情で、
「あー……なるほど。たしかにここじゃスマホなんて使えないから、ブルルン経由で情報をやり取りするのが一番手っ取り早いね」
と言って、首を縦に振ってみせた。
「そういう事だ。というわけで、こっちもこのまま焼却炉を探すとしよう。――朝霧さん、とりあえずこれから、焼却炉の前で蘇るという女子生徒と出会った場所へ行ってみようと思うんだが……どの辺りだか分かったりするか?」
「あ、はい。しっかりと覚えているので分かりますよ。案内しますね。それと……紡と呼び捨てで構いませんよ」
「そうか? じゃあ……紡、案内をよろしく頼む」
「はい、お任せください!」
そんな話を紡としていると、
「……ねぇ雅樹、紡の矢印が透真に向いてる気がしない?」
「矢印って……。まあ言わんとしてる事は分かるけどよ……」
なんて事を咲彩と雅樹が小声で話しているのも耳に入ってきた。
……矢印? 矢印が向いているってのは、どういう意味だ……?
今回はもうちょっと先まで行く予定だったのですが、どうにも区切りが悪いのと、思ったよりも会話が長くなった為、ここで区切りとしました。
というわけで(?)次の話が半分以上出来ている事もありまして……次の更新は、明後日(12月23日(金))を予定しています!
なお、先日記載したセラのイメージ絵については、明日~明後日のどこかで上げたいとは思っているのですが、まだ修正中でして……。上げられるかどうかは五分五分といった感じです……




