第22話 桜満
――俺は一瞬にして学校の校舎脇から、自分の部屋のリビングへと移動した。
「よし、成功だ」
これで明日から全力で走る必要はなくなったぞ。
……同時に、舞奈に遭遇する可能性もなくなってしまうのが、少し残念だな。
まあ……たまには敢えて走って行くのも良いかもしれない。
――さて、それはそれとして……とりあえず初日が無事終わった事を連絡するか。
そう考え、俺は制服のポケットからスマホを取り出す。
「少し前まで、これの使い方ひとつ知らなかったんだよなぁ……」
なんて事を呟きながら、電話をかける。
ライなんとかという名前のアプリとやらで、メッセージを送っても良かったのだが、一応こっちの方が良いと思ったのだ。
……決して、アプリの使い方をいまいち覚えきれていないから、ではないぞ!
などと、心の中で言い訳めいた事を呟いていると、
「やあ透真君、高校はどうだったかね?」
なんて声がスマホから聞こえてくる。
それは、俺がこの世界に流れ着いた時、俺を保護してくれた人物――公安とかいう組織のお偉いさんの1人である『千代田桜満』だ。
お偉いさんではあるが、まだ30代前半と若かったりもする。
……ちなみに、その辺りの事情は良く分からん。
「言われた通り、魔法は目立たないように使ったから特に問題はないはずだ」
俺は桜満に対しそう告げる。
敬語を使わないのは、桜満に対して敬語で話すと、何故だかわからないが桜満が凄く嫌がるのだ。だから、敢えて使わないようにしている。
「……あ、いや、目立たないように使うんじゃなくて、目立たないように魔法自体を使わないようにして欲しかったんだけど……」
ため息混じりにそんな風に返してくる桜満。
「完全に使わないというのは、さすがに無理だな。魔法を使わなかったら遅刻していたし、矢を的に当てるのもちょっと厳しかった」
「もっと早く家を出ようね……。というか、矢? まさか……破壊神の残滓が現れたの?」
桜満が声のトーンを少し落としながら言ってくる。
破壊神の残滓――それは、俺が向こうの世界で相手にした奴の『魂の欠片』が、何らかの姿形を伴って顕現した存在、とでもいうべきもの。
そう……驚く事に奴は地球から召喚されていたのだ。
ただし、地球側で太古の時代に千億に分割された上で封印されていた、奴の魂――『魂の欠片』のうちの八十億を召喚、融合しただけの存在ではあったが。
要するに奴は、千億のうちの八十億――つまり、本来の8%の力しか持っていない状態であった……というわけだ。
たった8%であれなのだから、もしも完全体であったら対処不可どころか、瞬殺されて終わりだっただろう。
魔王がその身を捧げてまで召喚しようとしたのが、良くわかるというものだ。
そして、そんな奴の魂――千億に分割された魂の欠片――の封印だが、長い年月の間に、様々な要因によって幾度も破られ、小規模ではあるが、様々な問題を引き起こしてきていたりする。
この世界のオカルトめいた事件や悪鬼妖魔の絡む伝承の多くは、この魂の欠片が原因であったとさえ、今では言われているくらいだ。
――その話を、こちらの世界に来て出会った桜満から聞かされた俺は、可能な限り、奴の魂の欠片が引き起こす事件の解決に協力する事にしたのだ。
無論、千億の魂の欠片すべてをどうにか出来るわけではない事はわかっている。
だけど、奴の驚異を知る者としては、奴を完全体にさせるわけにはいかないからな。
閑話休題――
桜満の心配と誤解を解消しておかねばなるまい。
この物語では定期的にオカルト話が絡んできます。
といっても……透真の言うように、千億(実際にはそれよりも少なくなっていますが)全てをどうにか出来るはずもないので、あくまでも絡んでくるだけです。
いきなり長編オカルトバトルアクションモノに化けたりはしません。
といった所で、また明日! 明日も連続投稿になると思います……
(明後日辺りからは、決まった時間に1話(場合によっては2話)ずつ更新する形になる予定です)




