第69話 転倒と落下
「なんというか……ボロボロねぇ……」
「そうだね。所々床に穴が空いているから注意するように」
亜里沙がかりんに対して頷きつつ、皆に対してそんな風に言う。
「外と違って暗いですね……。結界の効果である程度見えるとはいえ、足元には気をつけないと……。穴が空いていなくても腐ってい――きゃあっ!?」
「――おっと。穴が空いてなくても腐っていそうな場所には注意しないと、だな」
自分で口にしておきながら、腐っていた床板を踏み抜いて転倒しそうになった舞奈を支える俺。
「あ、ありがとうございます……。まさにその通りです……」
赤面しながらそんな風に言ってくる舞奈。
その様子を見ていたセラが、
「むー。なんだかズルい。私もやるー」
なんて事を言って、わざわざ穴の開いた場所に足を突っ込みにいった。
わけがわからないが、このままだと転倒するのは目に見えているので、俺はブルルンに視線を向けた。
ブルルンは前足をビシッと上げると、一気に加速しつつ、
「ヘッドスライディング救出ブルー!」
などと叫びながら、ちょうど転倒したセラの下に滑り込み、倒れ込んでくるセラをその背中で受け止めた。
元がヌイグルミなので、クッション性は抜群である。
無事、ブルルンの背中にダイブして事なきを得たセラだったが、
「違ううぅー! そうじゃないからぁー! ありがとうだけど、違うからぁー!」
と、なにやらそんな事を言いながら、唐突にブルルンの脇腹をギュッギュッと左右から揉み始めた。
「駄目ブル駄目ブル! そこは駄目ブルゥゥーッ!」
なんて声を上げながら、離脱しようとするブルルン。
しかし、しっかりと掴んでいるセラの手からは逃れられず、されるがままだ。
……一体、何が違うというんだ……?
首を傾げながらそんな風に思っていると、
「キャアアァァァアァァアァァァッ!!」
という女性の悲鳴が響き渡り、ドサッという音が響く。
「な、なんだ!?」
「い、今、何かが……落ちて……きた……」
驚きの声を上げる雅樹に続くようにして、震えながら窓を指差す霊体。
……悲鳴。そして重いものが地面に落ちた音。
この時点で、何が落ちてきたのかは予想がつくというものだ。
というわけで……すぐに窓へと駆け寄って外を見てみると、案の定というべきか、女性――正確に言うならどこかの学校の制服を来た女子生徒の姿があった。
その身体はありえない方向に折れ曲がっており、更に流れ出した血が地面を染めていた。
どう考えても生きているとは思えないような、そんな状態だ。
「……上から落下した? それとも突き落とされた?」
横に立つかりんが、そう言いながら窓を開けて上を見る。
俺もそれに続くようにして上を見……ようとした所で、女子生徒の遺体に奇妙な現象が起きる。
「……消えて……いく?」
そう呟いた俺の視線の先で、女子生徒の遺体がどんどんと透明になっていき……10秒もしないうちに、まるで最初からそこには何もなかったかの如く、地面を染めていた血も含めて完全に掻き消えてしまった。
これはもしや……と思っていると、
「ほっほーう! ボクが前に殺された時、気がついたら――生き返ったら全然別の場所にいて不思議に思っていたんだけど……なるほどなるほど、こういうわけだったのか! お陰で色々と靄が晴れたよ!」
と、興味深げな表情とテンションの高い声でそんな風に言う咲彩。
ああ、やはりこれが『蘇り』だったか。
にしても……どうして咲彩はこんなにハイテンションなんだ……?
今回は、なんだかラブコメチックなギャグっぽい展開から、いきなりホラーじみた展開に変化するジェットコースターみたいな構成に……
もっとも、最後はまたなんだかちょっとギャグっぽい感じになりましたが……
どうしてあんなにテンションが高いのでしょうね?(何)
とまあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は、平時通りの間隔となりまして……12月6日(火)を予定しています!




