第64話 穴を穿ち開く力
「それじゃあ、俺は制御と穴をこじ開ける方に集中するから、そっちは任せた」
「任されたわ。――3人からの力も込めるのよね? どうすればいい感じかしら?」
「そうだな……制御用の魔法陣を追加して、強化魔法を付与するような感じで、一度かりんへ力を流すとするか。そうすれば、かりんの力が増幅されるような状態になるから、流しやすいはずだ」
俺は、かりんの問いかけに対してそう返事をしつつ、更に魔法陣を展開し始める。
……っと、この形だと触媒となるものが必要だな……
「――舞奈、なんでもいいから自己強化魔法を使い続けてくれ。舞奈の発生させる魔力を触媒代わりにする」
「あ、はい、わかりました」
俺の説明にそう返し、即座に強化魔法を使う舞奈。
これによって、俺から舞奈に流れた魔力が、舞奈の周囲に循環する形となる。
それを魔法陣で制御して、セラと鈴花から吸い上げた力を乗せて、かりんに送れば、あとはかりんが術式に力を込めるだろう。
「あ、あれ? な、なんだか全身がちょっと『重い』ような……」
「ちょ、ちょっと……? 舞奈にはこれがちょっとで済むの? 私にとっては、もう暴れ狂う寸前って感じで、もの凄く『重い』んだけど……っ!? と、とりあえず術式の方に力を……っ!」
額から脂汗を流しながらそんな事を言って、本の術式へと力を流し始めるかりん。
「変換した全ての力が上乗せされているから、どうしても負荷が高くなる――『重く』なるんだよなぁ……。だがまあ……そこはなんとかしてくれとしか言えない」
「ちょ、ちょっと待って……3人分じゃなくて全部なの……?」
「そりゃそうだ。他に流せる人間はいないんだし。一応、舞奈とかりんで負荷が分散しているから、実質的な『重さ』は軽減されているけどな」
「……け、軽減された『重さ』で、これ……? ま、まったくもって厄介ね……。というか、毎度毎度なんとかしてくれって、気軽に言ってくれるわよねぇ……」
俺の言葉に嘆息しつつも、安定して本の術式へと力を流し続けるかりん。
ちなみに、舞奈の方は強化魔法の効果で、ある程度負荷が相殺されている為、体感的にはかりんに掛かっている『重さ』と比べると、かなり『軽い』のだが、それを言うとかりんに怒られそうなので黙っておくとしよう。うん。
にしても……なんだかんだ言いながらもどうにかしてしまうあたりは、あの破壊の化身――正確には、その魂の欠片が八百万ほど集まった集合体――を封印しただけはある……というべきか。
なんて事を思っている間にも、咲彩の説明どおりに儀式が進行し、力もしっかりと術式へ供給されていく。
「――で、そのまま全員で手を重ねる感じで置いて終わりだね」
という咲彩の言葉と共に、机を取り囲む4人が術式の上へと手を重ねる。
と、その直後、大きく鼓動する本。
そして床に、穴――いや、紫色の渦、あるいは沼とでも呼ぶべきものが広がり始めた。
「こ、これ! これだよ、これ!」
咲彩が少し興奮気味にそう叫ぶ。
しかしすぐに、
「でも、あの時と比べてちょっと小さいような……」
という言葉を続けてきた。
「なるほど……。これは一種の『ゲート』だと考えてよさそうな感じだな。これなら、おそらくこじ開けられるだろう」
俺はそう呟くように言いつつ、紫色の『ゲート』の真上に新しく魔法陣を生成。
更に生成。生成。生成――
「す、すげぇ……魔法陣が連なってドリルみてぇな形になってんぞ!?」
などと雅樹が口にした通り、俺の生成した魔法陣は幾重にも連なる事で、ドリルのような姿形を生み出しながら、『ゲート』に接触していた。
「ブルルン!」
俺がブルルンの方を見上げ、その名を呼ぶと、
「了解ブルよー! ブルルウゥゥーンッ! キイィィーックゥッ!」
そんな謎の掛け声と共に、ブルルンが急降下。
ドリル状に連なった魔法陣の一番上へと、その短い後ろ足で蹴りを入れる。
……まあ、ぶっちゃけるとピトッと先端が触れただけだが……
ともあれ、ブルルンのその行為によって、ドリル状に連なった魔法陣が回転し始め、文字通りのドリルとなって『ゲート』へと勢い良く潜り込んでいく。
と同時に、ザクザクと霜柱を踏みつけた時のような音が立て続けに響き渡り、『ゲート』が一気に拡張。あっという間に俺たち全員を飲み込む程の大きさへと変化した。
「お、成功したようだ」
そう告げると同時に、一気にゲートの中へと沈む込み始める俺の身体。
「浮いてるのに引っ張られるブルゥ! 不思議な気分ブルゥ!」
「飲み込まれるー! なんか面白いー!」
何故か妙に楽しそうなブルルンとセラが、真っ先に渦――ゲートへと沈んで消える。
「あわわ……だ、大丈夫……なの……これ?」
そして、逆にブルブルと震えている霊体が、次に沈んで消えた。
「そうそう! こんな感じだったんだよ!」
「まあ、いかにもワープしますって感じの見た目ですしね。色はアレですけど」
咲彩と舞奈がそんな事を言った。
他の面々もあれこれ口にしている。
だが、その声が俺の耳に届くよりも先に俺の身体が完全に沈みきり、音が遮断された為、良く聞き取れなかった。
が、霊体以外は恐怖心はなさそうだ。
まあ、ある意味さすがは皆……というべきなのかもしれない。
などと思っている間に、視界を埋め尽くす紫の靄のようなものが徐々に晴れてきて、朧気に森のようなものが見え始めてきた。
なるほど……こういう風に転移するわけか。
これはこれで、どういう仕組みなのか興味深いな。機会があれば調べてみたいものだ。
っと。それはそれとして、遂に例の異空間に存在する村……か。
果たして、何が待ち受けているのやら……だな。
何気に前話よりも長かったというオチでした……
とまあそれはそれとして、遂に『異空間にある村』へと乗り込みます。
そして、次の更新は先日記載した通り、明後日11月21日(月)を予定しています!




