第63話 術式実行準備
「そ、それなら早速やってみよう! もし上手く行く事が出来たら、ボクの友達――美香に楓に紡を助け出す事が出来るし!」
行ける可能性があると分かった途端、咲彩が前のめりにそう言ってくる。
その勢いに押されて、若干後ずさる俺。
とはいえ、その気持ちは理解出来るというものなので、
「あ、ああ、そうだな。失敗した所で何かあるわけでもないし、やるだけやってみるとするか」
と、そう答える俺。
勢いに押されて頷いたわけではな……いや、ちょっとあるかもしれない……
「そうね。私、透真……それから鈴花の力でどうにか出来そうね。あと、透真の膨大な魔力を直接行使する手段を持つという意味では、舞奈とブルルンも補助役として勘定に入るかしらね?」
「まあ、俺から吸い上げた魔力を変換する必要があるからそうなるな。それで言うなら、れいた――花子さん……カッコ仮とセラも鈴花と同じ枠だな」
「え? 私? セラちゃんと花子さんカッコ仮は、なんとなく分かるけど、私?」
急に勘定に入れられた鈴花が、自分を指差しながら、驚きと困惑の入り混じった声でそんな風に問う。
「ええそうよ。だって、鈴花も私と同じような力を持っているわけだし」
「な、なる……ほど? でも、何をどうすればいいのか良くわからないけど……」
かりんに対し、納得しきれていない表情でそう答える鈴花。
そこへかりんが、更に補足するように告げる。
「まあ簡単に言うなら、鈴花たち3人はいわゆるポットのような感じというか……『力の供給源』みたいな感じだと思えばわかりやすいかしらね? 特に複雑な事はしなくても大丈夫よ。簡単な方法で力だけ供給してくれればいいわ」
「あ、なるほど。それならたしかに私でも出来るかも。……干からびたり、レベルが下がったりしないよね?」
納得しつつもそんな事を問いかけてくる鈴花に、
「しないから大丈夫よ……。そもそも、なんのレベルなのよ……」
と、やれやれと言わんばかりの表情で、呆れ気味に突っ込むかりん。
「魔法レベル?」
「……ロストはしなさそうですけど、回数が減りそうですね。それともどこかの塔に出てくるモンスターですか? ……って、そうではなくて! さっさとやりますよ!」
更にボケる鈴花に対して、そんな返事をしながらセルフ突っ込みをする舞奈。
どっちも昔のゲームだったっけか……。まあ、舞奈らしいと言えば舞奈らしいが。
なんて事を思っていると、
「ふたりとも『ここでボケて』ないでやるよー」
「よ、良く分からないけど……手伝えるなら……手伝う……よ」
と、セラと霊体がそんな風に言った。
……なんだか、セラが妙な所を強調したような気がするが……
って、鈴花と舞奈も何を考え込んでいるんだ……と突っ込みたくなったが、それをすると話が進まないので、俺は心の中で突っ込みながらスルーして告げる。
「なら、始めるとするか。ブルルン、周囲の術式を擬似的に発動させる魔法を構築するぞ」
それを聞いたブルルンが、上向きになりながら「了解ブル!」と前足を片方だけビシッと上げてくる。そして、そのまま天井付近まで浮上し、魔法陣を展開し始めた。
俺もまたそれに合わせるようにして、床に魔法陣を展開しつつ、
「阿良木先生、机の上に本を置いて、例のページを開いてくれませんか?」
と、亜里沙の方を見て告げた。
「はいよ。えーっと……49ページだったはず……」
そう言いつつ机の上に例の本を広げる亜里沙。
「で、えーっと……かりんは別にやる事があるから……舞奈、セラ、鈴花、そして花子さんカッコ仮の4人で、先日咲彩がやったのと同じ方法を試してくれ。咲彩、説明を頼む」
俺がそんな風に言うと、「了解したよ!」と返してきた咲彩の説明に従う形で、4人が机を取り囲んでなにやら儀式っぽい事をし始めた。
直後、僅かではあったが、49ページに記されている術式がドクンと鼓動する。
お、反応したか。あとはここに魔法陣で擬似的に変換した『力』を流すだけだな。
かりんにこの役を任せたいと思って、儀式役から外したんだが、果たして出来るのだろうか……? 俺としては出来る思っているんだが……と、そんな事を心の中で呟きながら、かりんへと問う。
「で、かりんは、その本の術式に力を流し込んで欲しいんだが……出来そうか?」
「ええ。それなら呪符に力を込めるのと同じ様なものだから楽勝よ。というか、そうだろうなって思っていたし」
なんて事を、自信満々に言ってきた。
出来ないとは言われないと思ってはいたが、随分と自信満々だな。
でもまあ……たしかに呪符を作る際の工程のひとつと同じだと言えば同じか……
そう考えると、やはりかりんが一番適任と言えるな。
よし、それならそちらはかりんに全て任せてしまおう。
そうすれば、想定外の事が起きても対処する余裕が出来るし、上手くいく可能性が高まるというものだ。
妙な所でボケたせいで思った以上に長く…… orz
というわけで、一旦ここで区切ります。
諸都合で更新の間隔が平時よりも多く空く予定でしたが、上記の理由により、まだ半分ほど残っているので、間を取って明後日更新いたします。
なので、次の更新は明後日11月19日(土)で、その次の更新が11月21日(月)の予定となります!




