第21話 転移門
「なんだかんだで遅くなってしまいましたね……」
昇降口を出た所で、舞奈がそんな風に言ってくる。
防火扉について、結城先生とあれこれしていた結果、外はすっかり夜の帳が下りてしまっていた。
「そうだな……。こんな時間までつき合わせちまって、悪かった。……昼飯1食分の代金じゃ安すぎた気がする」
「いえ、そんな事はありませんよ。十分です。むしろ、防火扉の件は想定外というか……不可抗力的な所があるので、仕方がないと思います」
「それはそうかもしれないが、やはり――」
……いや、まて……。このまま次の言葉を紡いだら、俺と舞奈の性格上、堂々巡りになってしまいそうな気がするぞ……
それに気づいた俺は、言おうとした言葉を飲み込み、その代わりとなる言葉を口にする。
「――まあいいや。とりあえず時間も時間だし、早く帰るとするか」
「ええ、そうですね」
「っと、そうだ。夜道は危険だし、自転車で家まで送っていこうか? ……といっても、使う自転車は月城の物だが」
「あ、は……。……い、いえっ、それにはおよびませんっ! 少し遠回りにはなるのですが、土手の道を行かずに国道の方から帰れば暗くはないですし、大丈夫ですっ!」
一瞬、「はい」と言いかけて、慌てて断ってくる舞奈。
……送り狼という言葉もあるし、それを警戒しているのだろうか?
無論そんな事にはならないが、それを示す手立てがないのもたしかだ。
まあ……夜道は危険といいつつも、土手の道さえ使わなければ、この辺りは車や人通りがそれなりにあって、店舗もあるような道が多いから、そこまで危険じゃなかったりするんだよな。まったくもって向こうの世界とは大違いだ。
もっとも、車がとても多いので、別の意味で注意が必要ではあるが。
「わかった。それじゃあ、また明日な」
「はい、また明日」
そんな感じで舞奈と分かれた俺は、正門へと向か――わずに、人の居ない校舎脇へと移動する。
そして、周囲に誰も居ない事を確認すると、靴で地面に紋様……印を描き、
「――虚空を超えて此の地と彼の地を繋ぎし其よ、今ここに顕現せよ。《転移門》……第十七の印より第十六の印」
と、呪文を詠唱して前方に手を軽く突き出した。
直後、俺の前方60センチくらいの所に、俺ひとりがすっぽり収まるくらいの大きさがある青白い渦のようなものが出現。
その渦の中に俺の家――正確に言うなら、割とお高い高層マンションにある俺の部屋のリビングが見えた。
そう、これは特定の場所と特定の場所とを繋ぐ門。
簡単に言うと……瞬間移動をする為のゲート、だな。
『印』を自分で刻んだ所にしか行けないのが欠点ではあるが、印は幾つでも刻めるので、一度繋ぎたい場所へ行きさえすれば、それ以降はこれで一瞬にして行けるのだ。
故に、欠点を補ってあまりある非常に便利で優秀な魔法であると俺は思っている。
……もっとも、次元を越える事はさすがに出来ないので、こちらの世界に来た時に、向こうで刻んだ印は全て消滅してしまったようだが。
そんなわけで、こちらの世界で再びイチから印を刻み始めたが、まだ15ヶ所――いや、ここで16ヶ所目か――しかない。
ま、こればかりは徐々に増やしていくしかないな……
と、そんな事を考えつつ、俺は目の前に出現している転移門……渦へと飛び込んだ。
本日はもう1話投稿します!




