第59話 咲彩の教室にて
「ま、まさか急に襲いかかってくるなんて……。雅樹……ありがとう」
「あ、ああ、まあ……気にするな。それより思い切り引っ張っちまったが、怪我とかはないか……?」
「う、うん。雅樹が受け止めるような形になってくれたから大丈夫」
「そ、そうか」
などという会話をしている雅樹と咲彩を見ながら、
「ああいうのいいですね」
「うんうん」
などと小声で言う舞奈とセラ。
……うんまあ、機会があったらやってみてもいいかもしれないな。
もっとも、俺の場合は雅樹みたいな行動をするよりも先に、攻撃してきた奴を吹き飛ばしたり倒したりしてしまいそうだが……。倒せるなら倒してしまう方が早いし安全だし。
なんて事を考えていると、俺の考えている事を察したらしいブルルンが、「ダメダメブルね」とでも言いたげな、何とも言えない表情をこちらに向けてきた。
……その理由は敢えて聞かずにスルーし、咲彩の開けようとした――というか、既に少しだけ開いた状態のドアへと近づき、詳しく調べてみる。
「もう何か起きそうな感じはしないブル。でも……なんだか妙な力の流れを壁や床から感じるブル」
横にやって来たブルルンがそんな風に言ったとおり、ちょっと気になる所はあるものの、ドア自体は特に問題はなさそうだった。
というわけで教室のドアを開け放つ俺。
すると、隙間から魔法剣をねじ込んで倒した黒い手の粒子――残骸が今まさに消滅する所だった。
「ウニョーン、消えたねー」
「う、うにょーん?」
横から覗き込んできたセラの発言に、首を傾げる霊体。
「ウニョーンはウニョーンだよ。今出てきたでしょー? ウニョーンって」
「……う、うん、たしかにウニョーンって感じだった……けど? うーん?」
霊体がセラの返答に対し、困惑の表情を浮かべながらそう返す。
まあ、その反応は分からんでもない。
「ウニョーンは始末したはずなのに、なんだか微弱にだけど同じような霊力を感じるわね」
「あと、異質さ……のようなものもある……かな? 教室に入った直後から、『なにかがおかしい』っていう漠然とした感覚があるんだよね……」
かりんの言葉に続くようにしてそんな事を言う鈴花。
さすがは巫女――というか、かりんの子孫……というべきなのだろうか。
と思っていると、
「こっちの……ここかな?」
と言いつつ、廊下側から2番目の列の前から3番目の机へと移動する鈴花。
「あ、そこ私の席だよ。で……あの日、例の本を開いたのもそこ」
「なるほどブル。未だに僅かブルけど、魔力……あるいは呪力のようなものが、そっちへ向かって流れているブルね」
咲彩の言葉に納得したような表情でそんな事を言うブルルン。
「魔力……あるいは呪力のようなものが流れていっている……? それはもしや……」
「……あの本――正確には『あの術式を、どんな人間でも発動させられるようにする為の仕掛け』でしょうね」
亜里沙の言葉を引き継ぐようにして、そう説明する俺。
「どんな人間でも発動させられるようにする為の仕掛け……。ああなるほど、術式を発動させようと試みると同時に、それに必要な魔力だか呪力だかが術式に自動的に流れ込んで、発動させようとした人の力の有無に関わらず、強制的に発動させる……というわけですね」
俺の説明を聞いた舞奈が納得の表情でそんな風に言ってくる。
「ま、そういう事だな。原理としては呪符や魔導具に近いとも言えるな」
そう俺が補足するように言った所で、かりんが霊体の方を見て、
「――ところで、この流れていってる力が、貴方が感じていた邪悪な霊気とやらで間違いない感じかしら?」
と、問いかけた。
「う、うん……。たしかにこれで……間違いない……よ。もっとも……ここまで薄いと、下からじゃ感じ取れなかったけど……」
なんて言ってくる霊体。
時間によって感じ取れたり取れなかったりするのは、この力の濃度が変化するからだというのは分かったが……なんで変化するんだ……?
まあ、もうちょっと調べてみるか……
思ったよりも長くなってしまったので、一旦ここで区切りました……
とまあそんなこんなでまた次回!
次の話は既に大部分が出来ているので、次の更新は明後日11月10日(木)を予定しています!




