第56話 魔法と砂糖と霊体と
「……ま、まさか、こんなにあっさりと行くなんて……思わなかった……」
想定外だと言わんばかりの表情でそんな事を言いながら、トイレの壁をすり抜けながら行ったり来たりする霊体。
「たしかに纏わりついていたものは、完全に消えたみたいね」
と、かりんが霊体の言動を眺めながら言うと、
「さすが、トー兄様! ……と、ブルルン!」
などと手放しで称賛してくるセラ。
もっともブルルンは横で、
「なんだかブルルンは、オマケで言われている感じがするブル……」
なんて事を呟いていたが。
……まあ、たしかにそんな感じはちょっとするが……敢えて何も言うまい。
「ま、そっちの問題が片付いたんなら、そろそろ咲彩の教室へ行くとしようぜ」
「ああそうだな。――さっき言った通り、探索を手伝ってくれ」
雅樹に対して頷いてみせながら、俺は霊体の方を見てそう告げる。
「う、うん……分かった。役に立てるかは……分からないけど……」
そんな風に言いながら付いてくる霊体と共に、俺たちは一旦トイレの外へと出る。
「っとと……。このドア、修復しておかないと駄目よね」
最後にトイレから出てきたかりんが、そう言いながら復元魔法を使ってドアを元通りにする。
無論、打ち付けてあった板まで完全に元通りだ。俺たちが中に入ったとは誰も気づかないだろう。
「はい、これで完了よ。行きましょ」
かりんがそう告げて俺たちに移動を促す。
咲彩はそれに頷いてみせると、
「それじゃあ案内するよ。――っていうか今の魔法、凄く便利だよね……。ボクも使う事が出来るのなら、宿の修繕が凄く楽になるんだけどなぁ……」
なんて事を言いながら歩き始めた。
まあたしかに壊れた所を直すのにはうってつけの魔法ではあるな。
だが――
「残念ながら、咲彩の資質だとこの類の魔法は使えないな……」
と、咲彩の後ろを歩きながら答える俺。
そう、咲彩に修復とか回復とかの魔法を使う資質はないのだ。
むしろ、破壊する方が資質があるくらいだし。
「むぅ……。残念……」
「けど、雅樹が何気にかりん以上の高位の復元魔法を使える資質を持っているから、必要に応じて雅樹に頼めばいいんじゃないか?」
残念そうに肩を落としてみせる咲彩に対し、一応フォローとしてそんな風に告げる俺。
「そ、そうなんだ! ――という事らしいから、よろしく頼むよ、雅樹! 例のテレポート魔法を覚えたら、転移先を雅樹の部屋に設置するつもりだから、いつでも呼びに行けるしね!」
「いやいや待て待て! なんで俺の部屋にピンポイントなんだよ!? せめて、俺の家の前とかにしろよ!?」
「大丈夫大丈夫! こっちもボクの部屋に設置するから!」
「……そうか、それなら問題な……って、ちげぇ! それもそれで問題大アリだろ!?」
などと、再び漫才みたいな会話をし始める咲彩と雅樹。
そして、それを見ながら、
「うーん……。私か紘都もテレポート魔法が使えたら良かったのにね。そうしたら、いつでもすぐに会えるし」
「そうだね。まあでも、雅樹と咲彩さんの様に離れているわけじゃないから、必要ならすぐにでも駆けつけるさ」
なんて言葉を口にする鈴花と紘都。
「……何、この2組……。見てると口から砂糖を出してもいいかなって気になってくる……」
そんな事をポツリと呟く霊体。
それに対して、
「え? 口から砂糖を出せるの?」
なんていうツッコミをいれるセラ。
亜里沙が「ま、私も砂糖を吐きそうではあるけどね」と肩をすくめながら言った後、
「ところで……キミの名前とこの学校で発生した障害事件について、それっぽいものがないか調べて貰ったんだけど……該当しそうなものはないって言われてしまったよ」
と、そう言葉を続けながらスマホへと視線を落とした。
……は? どういう……事だ?
復元魔法と転移魔法の話……というか、会話が思ったよりも長くなった為、一旦ここで区切りました。
概ね出来てはいるのですが……次の更新が本来ですと多く空くところだった為、ちょうど間隔が同じになるよう、明後日更新しようと思います。
というわけで……次の更新は、明後日11月4日(金)の予定です!
※追記
咲彩の口調がおかしくなっている所があったので修正しました。




