第20話 グラウンドにて
「あれ、成伯君? ……と、舞奈?」
グラウンドに出ると、俺と舞奈の存在に気づいたらしい鈴花が、そんな声と共に俺たちへと駆け寄ってくる。
「どうしたの? ふたりして。――はっ! まさか校内デート!?」
鈴花がそんな事を言って口に手を当てる。
「ち、が、い、ま、す! というか、なんですか校内デートって! 結城先生にカラーコーンとコーンバーを取ってきて欲しいと頼まれただけですよ……っ!」
顔を赤らめながら語気を強めて否定し、事情を説明する舞奈。
それに対し、
「あ、なんだ、そうなんだ。それならあそこに余ってるから持っていっていいよ」
と、あっさりとそんな言葉を返してくる鈴花。
……こいつ、分かってて敢えてあんな事言っただろ……。まったく……
やれやれと呆れながら鈴花が指差す方へと顔を向けると、そこには赤い円錐状の物と、黄色と黒のストライプの棒があった。
ああ、あれがカラーコーンとコーンバーなのか。前に道路工事をしている所で見かけたな。
「勝手に持っていっていいのですか?」
「うん、私が後で顧問の先生に言っておくから大丈夫だよ」
「わかりました。わざわざすいません。ありがとうございます」
舞奈がそうお礼を述べると、鈴花が不満そうな顔で、
「……固い!」
と、唐突に言った。
「ふへ?」
わけが分からず、素っ頓狂な声を上げる舞奈。
「そういう時は、『おっ、サンキュー!』くらいのノリでいいんだよ!」
なんて事を言ってくる鈴花。
……それを口にした奴が、その直後に魔王軍の巨人が放った衝撃波で崖下に叩き落された事があったなぁ……。あれは、火山にある神殿での戦いの時だったか……?
まあ、叩き落された奴は、幸いにも無事だったけど。
などという、今となってはどうでもいい事を思い出していると、
「い、いえ、さすがにそれは……」
と、恥ずかしそうに拒否する舞奈。
「じゃあせめて、サンキューって言ってみて! ねっ!」
随分と攻めるな!
「え、ええ……っ!? …………サ、サンキュー!」
あ、言うんだ。メチャクチャ恥ずかしそうだけど。
「どうかな、成伯君! かわいいと思わない!?」
何故そこで俺に振る!? いや、自分で言っておいて恥ずかしがっているというその仕草は、たしかにかわいいとは思うが!
「そ、そう……だな?」
俺は鈴花にそれだけ答えて、それ以上は何も言わない。言わないぞ。
「す、鈴花! 成伯さんを困らせないでください! というか、変な事やらせないでください!」
「あははー、ごめんごめん。……でも、やったの舞奈だよ?」
「うぐっ! それはそうかもしれませんが……っ!」
怒りを鈴花にぶつける舞奈と、それを軽く受け流す鈴花という、なかなか面白い光景を見ながら、俺はカラーコーンとコーンバーを手早く回収するのだった。
ノックバックには注意しましょう(何)
とまあ、それはそれとして……本日も連続投稿します!




