第33話 ひされしまじないと、ふるきでんしょう
「――とまあそんなわけで、山の奥に村跡と思しき場所がありました」
「で、手の形になった例の黒いのが、ワラワラと湧いてきたわ」
舞奈とかりんが、俺の代わりに亜里沙に対して先程見てきた物を説明する。
そしてそれにブルルンが補足するように、
「最初はなにも感じなかったブルけど、急に邪な魔力に満ちてきたブル」
と、言った。たしかに、急に現れた感じだったな。
「それは……明らかに『怪しくて危険な場所』……だね。余程の事がない限り、人が踏み入ったりしないであろう山の奥にあるのが幸いと言えば幸いだけど」
「そうですね。……そもそもの話として、あの参道や村跡の存在を把握している人間がどれだけいるのかって感じだったりはしますけど」
亜里沙の発言に対し、俺がそう答えると、
「ふむ、そうだね。多分ほとんどいないんじゃないだろうか。警察に行った時についでに、この近くの山に村や集落がなかったかと聞いてきたのだけれど、少なくとも警察の中には知っている人がいなかったし」
と、そんな風に返してくる亜里沙。
「そうなると……人々の記憶から消えるくらい、昔に消えた村……なんですかね?」
「あるいは、敢えて記憶や記録から消えるようにしたか、かなぁ?」
舞奈の発言にそう返す咲彩。
「ん? そりゃどういうこった?」
「村が消えた時に、大掛かりな隠蔽工作が行われたとしたら、その隠蔽工作に関わった人間がその事を後世に伝えなければ自然に記憶や記録から消えるって事さ」
首を傾げる雅樹に咲彩がそんな風に説明すると、
「ああなるほどな。秘密の抜け穴を作った際に、その抜け穴を作った者たちを完成と同時に抹殺して漏洩を防止するような感じか」
と言って、納得の表情をする雅樹。
「うん。例えがあれだけど、まあそういう事さ」
という咲彩の言葉を聞きながら、亜里沙が顎に手を当て、
「隠蔽工作か……。それはたしかにあり得る話だね。だけど、そこまで完璧に隠蔽しようとすると一筋縄ではいかないはず……。どこかに何か情報の断片が残されていてもおかしくはない」
なんて事を呟くように言う。
「その断片……というのが、その本の記述……だったりするのかな?」
紘都がそう言いながら、亜里沙が警察から借りてきた本へと視線を向ける。
「えーっと……なんとかされしなんとかいと、なんとかきなんとか承……?」
本のタイトルを読み上げようとするも、読めなかったらしい鈴花。
そんな鈴花に対してブルルンがツッコミを入れる。
「何を言っているのかサッパリ分からないブル」
「だってこの本のタイトル、見た事のない漢字ばっかり並んでるんだもの……。これ、なんて読むの?」
そう言いながら、こちらに本のタイトルを見せながら問いの言葉を紡ぐ鈴花。
『祕されし咒いと、旧き傳承』と記されたそのタイトルを見て、
「それは、『ひされしまじないと、ふるきでんしょう』……と読むのよ。あまり使われないというか……承以外は全て古い漢字ね。まあ……こういった如何にもな本のタイトルに使うのには、ちょうど良い雰囲気の出る文字ではあるわよね」
と答えるかりん。さすがと言うべきか、サラッと読んだな。
「うーん……。中もよくわからない文字の羅列と模様の絵ばっかりだね」
本を開いて中を眺めながらそんな風に言ってくるセラ。
「なるほど……。たしかに呪文や術式の図が、ズラズラと続いているな。まあ、どれもこれも何の効果も発揮しなさそうなものばかりだが」
俺がセラの横から本の記述を確認しつつそう告げると、雅樹が肩をすくめながら、
「ま、この手の本はそんなもんだろ」
なんて事を言ってくる。
「そうだねぇ。実際、最初の方から順番に試していったんだけど、どれもこれも何も起きなかったし」
咲彩は頬に手を当てながらそこまで言うと言葉を一度切り、短くため息をついてから、
「……49ページ以外は」
と、トーンダウンした声でそう告げてきた。
「49ページ目なの? えーっと、今が35だから……36……37……38――」
セラがそんな感じで声に出しながらページをめくっていき……
「48……49……。……って、あれ?」
49ページ目を開いた所で、首を傾げた。
うん? なんだ?
若干、例の本の『題名』(漢字)が(機種によって)表示されるか怪しかったもので、急遽こんなノリにしてみました……。表示されなかった場合は、誠に申し訳ありません…… orz
急遽流れを調整した事もあり、変な展開と説明的な感じになってしまっている箇所がありそうな気がしていて、後々修正するかもしれません……
とまあそんな所でまた次回! 次の更新は、明後日9月10日(土)を予定しています!




