第30話 石の柱とかつての人里
鈴花から先祖に神社の生まれがいる事について告げられたかりんは、一瞬目を見張った後、
「そ、そうなの……。まあ……たしかにその人が巫女であった可能性は十分に考えられる話ね。そして、その……そうであるのなら、もしかしたら……。えっと、本当にもしかしたら……だけど、その辺りの血が何らかの影響を与えているのかもしれないわね……」
などと、明らかに動揺したような雰囲気を醸し出しながら言葉を紡ぐかりん。
……これは、鈴花がかりんの妹の子孫である可能性が高そうだな……
なんて事を俺が考えていると、
「もしそうだとしたら、私にはどうにも出来ないなぁ……。あ、でも、その場合は魔法の資質はありそうだよね?」
と、そんな事を言ってくる鈴花。
それに対して俺は、
「うんまあ……たしかにそうだな」
とだけ告げて、おそらくかりんに似た資質がありそうだな……というのは、心の中でだけ呟いておいた。
「あんなに現実逃避していたのに、今は完全に受け入れてますねぇ……」
そう小声で言ってきた舞奈に、
「そうだな。ま、そのくらいの方が助かるが」
という返事をした所で、セラが正面を指さしながら、
「あれ? あそこに何かあるよ?」
と、告げてきた。……うん?
「石の柱……?」
そう紘都が呟いたように、セラの指さしていたそれは、2本の石の柱だった。
「これは……鳥居の跡……かしらね」
近づいた所で、そんな事を言ってくるかりん。
それに対して俺は、顎に手を当てながら、
「鳥居……?」
という疑問を口にする。
「そう、鳥居よ。ほら、柱の上の方を良く見ると横に穴が空いているでしょ? ちょうど2本の石柱を繋ぐ何かが水平に入るような、そんな感じのが」
かりんの返答を聞いた鈴花が、石柱の横に回って見上げながら、
「あ、言われてみるとホントにそれっぽい穴があるね」
と、そんな風に言ってくる。
なるほど、たしかに……と、俺も穴を見上げて思った所で、
「そこに貫を通して、更に柱の上に、島木と笠木を設置すれば、鳥居になるでしょ?」
という説明を、かりんがしてくる。
「あ、鳥居の横木ってそういう名前なんですね」
「ええ、そういう名前なのよ。まあ、柱が石造りの時点で、それらも木じゃなくて石で造られていたのかもしれないけれどね。昔は石造りの鳥居って結構あったし」
舞奈に対してそう告げつつ、柱の周囲を見回すかりん。
周囲にそれらの残骸の類が散乱していたりはしないので、その部分だけ砕けた……というわけではなさそうだが……
「昔は神社の入口がこっちにあったんですかね?」
舞奈が後ろ――かつての道の跡を見ながらそう口にすると、かりんが、
「そうね。その可能性は十分にあり得ると思うわ。時代の流れと共に人里の位置が変わったり、何らかの理由によって本殿を遷宮――移転したり……というのは、そんなに珍しい事じゃないし」
と言って肩をすくめてみせる。
「だとしたら……この先には、以前は人里だった場所があるって事かな?」
「ああ、そうかもしれないな。まあもっとも……既に完全に自然に還ってしまっていて、何も残されていないかもしれないが」
俺が紘都に対してそんな風に返した所で、セラが額に水平に手を当て、更に山の奥へと続いている道の先を眺めながら、
「でも、気になるし、とりあえず行ってみようかー?」
と、そんな風に問いかけてきた。
「そうですね。ここまで来た事ですし、一応見に行ってみましょうか」
「行くなら早く行った方が良さそうよ。空が暗くなってきたというか……雨が降ってきそうな感じだし」
セラに対して同意する舞奈に、そう告げつつ空を見上げるかりん。
たしかにかりんの言う通り、空は既に分厚い雲――雨雲に覆われており、いつ降ってきてもおかしくなさそうな感じだった。
宿を出た時は晴れていたんだが、いつの間にか大分悪化しているなぁ……
本来はサブタイトルの後ろ半分までが「30話」の予定だったのですが、1話で入り切るようなものではなかったので、一旦ここで切りました……後ろ半分は明日更新します。
というわけで、次の更新は明日(9月4日(日))です!




