第29話 朽ち果てた道と鈴花の血脈
「獣道……ではないわね。人の手が入っているような気がするわ」
「はい。ところどころに石畳……の残骸らしきものが見えますし、一応人の手で作られたもののようで間違いないと思います。まあ、既に朽ち果てている感じですが」
かりんに続く形でそんな風に言う舞奈のその視線の先には、たしかに人の手で作られた道である事を示すかのように、石畳の残骸と思しき平らな石がチラホラあった。
「でも、どこにも繋がっていない道って感じよね。この道へ続く分岐なんてなかったし」
「うん、そうだね。おそらく月城さんの言う通り、朽ち果てた道――今は使われていない道なんじゃないかな? ただ、道が作られているって事は……この先に何かがあるって事でもあるよね?」
鈴花にそう返しつつ、朽ち果てた道の先へと顔を向ける紘都。
「ああ、そうなるな。さっき感じた妙な揺らぎもこの先辺りになるし、このままこの道を進んで行ってみるとしよう。距離的にはそう遠くないはずだ」
俺は紘都に対して頷いてみせた後、皆を見回しながらそんな風に告げ、『揺らぎ』を感じた方へと続く、その道の先へと足を向けた。
そして、そのまま歩きだして少し行った所で、
「……ほんの少しだけど、あのウニョーンが見えた時と同じような……こう、ちょっと嫌な感じがするかも……」
なんて事を口にするセラ。
そして、かりんもまたそれに同意するように、
「……そうね。深夜に感じた『嫌な気配』に近い物を私も感じるわ」
と、そんな風に告げてきた。
それを聞いた鈴花が、
「うん? 深夜? 何かあったの?」
という、ある意味当然の疑問を口にする。
ま、さっき――咲彩の部屋では、敢えてそれについての話はしなかったからな。
あの場で話しても、不必要に咲彩……と、雅樹を不安がらせるだけになるし。
「ああ。真夜中――零時ちょっとすぎに、呪いの元凶が咲彩を再び取り込もうとしてきたんだ」
その俺の説明を聞いた鈴花が、顎を撫でて思い出しながら……といった様子で、
「零時すぎ……。……そう言われると、なんかちょっとホラーな感じの夢を見て目が覚めたのが、そのくらいの時間だった……かも。もしかして、あれもその影響……だったり?」
なんて事を言ってきた。……って、ちょっと待て。
「まさか……あいつが顕現した事によって生じた邪悪な波動、あるいは負の想念の影響を受けた……のか? だが、離れた場所にまで影響が出るような波動じゃなかったはずだが……」
思考と共に口を衝いて出た俺の呟きに対し、かりんが額に当てながら、
「そうねぇ……。そういった邪なものの影響を受けやすい……というか、そういったものを感知しやすい体質……なのかしらね?」
という推測を返してくる。
「う、うーん……。たしかにそんな風に言われると、幽霊だった時に、鈴花お姉ちゃんにちょっと引き寄せられるものを感じていたかも……」
そんな風にセラが言うと、鈴花はそれに対して「え? そうなの?」と、驚いてみせた後、
「むむむ……。そう言われても、私に霊感とかそういうのはないと思うんだけどなぁ……。幽霊なんて一度も見た事ないし。……セラちゃん以外は」
などと、首を捻って考え込みながら言葉を返す。
「霊感とは違う別の何か……なのかもしれませんね」
「ええ、たしかにその可能性は十分に考えられるわね」
かりんは舞奈の方を見て同意の言葉を口にした後、「あっ!」と、ふと思いだしたと言わんばかりの表情で声を発し、鈴花の方へと顔を向け直す。
そして、
「そうだわ! ずっと聞こうと思っていたんだけど……。鈴花、あなたの先祖に巫者――巫女の類はいなかった?」
という問いの言葉を続けた。
「巫女? ……うーん、どうだろう? 少なくとも知っている範囲ではいないかな? あ、でも――」
「でも?」
鈴花の返答に対して首を傾げるかりん。
「なにか気になる事でも?」
紘都がかりんに続く形でそんな疑問の声を鈴花に投げかけると、それに対して鈴花は頷いてみせ、
「うん、気になる事というか……大分前に、お母さんの方のおばあちゃんのそのまたおばあちゃんが、どこかの神社の生まれだった……って話を聞いた事があったなーってのを思い出してね。神社の生まれなら、巫女をやっていた可能性も高いと思わない?」
などという言葉を紡ぐのだった。
なんというか……今回の話は、ほぼ先に進まずに終わってしまったというか……
鈴花に関する話が思ったよりも長くなってしまった感じです……
その反動……というわけでもないですが、次の話もかなり出来ているので、
次回も平時より1日短い間隔で更新出来そうな状況だったりします。
なので、次の更新は……明後日(9月3日(土))を予定しています!




