第16話 ブルブルブル
「え? あ、なるほど、内風呂の湯船は男湯と女湯で少し距離がありますが、露天風呂の方の湯船は壁一枚で隣接している構造なんですね」
舞奈が――おそらく建物の構造を分析しながら――そんな風に言う声が聞こえてくる。
なるほど……。まあ、たしかに隣接していてもおかしくはないか。
しかし、この距離なら……
「ブルルンが壁を越えて向こう側へ行っても、隠蔽魔法は維持出来そうだな」
「えっ! 本当! ブルルンが、こっちへ来られる感じー!?」
俺の声を聞き取ったセラが、声を大にして呼びかけてくる。
「ちなみに、こっちには私たち以外いないから、もし魔法が解除されたとしても大丈夫だと思うわよ」
「なら、試してみるか」
かりんの言葉に俺がそう答えると、早速とばかりにセラが、
「ブルルーン、こっち来てー!」
と、ブルルンを呼ぶ声を上げた。
「了解ブル!」
ブルルンはそれに答える形で、湯船から飛び出して壁を飛び越え向こう側へと移動する。
そして、壁の向こう側へと消えてから程なくして、
「やって来たブル! ザブンブルッ!」
「ブルルン来たよー! トー兄様、魔法は大丈夫そうー?」
というブルルンとセラの声が響いてくる。
「……なんか今、だいぶ前に再放送されていた古いロボットアニメの、青いメカみたいな声が聞こえたな」
なんて事を雅樹が呟いたが、良く分からなかった。
『ロボット』というもの自体、こっちの世界に来て始めて知ったしなぁ……
コウイチたちとも、その手の話になった事はなかったし……
……とまあ、それはいいとして――
「魔法の維持は問題なさそうだ。ただ……あまり離れると解除されてしまうと思うから、なるべく壁際にいるようにな」
魔法が解除されたような感覚はなかったので、俺はそう告げた。
「うん、わかったー! トー兄様、ありがとー!」
俺の言葉にセラが喜びの声でお礼を返してくる。
そしてそのまま、
「それじゃあ、早速ブルブルしよー!」
という言葉を続けた。
「ところで……ブルブルって、何ブル?」
もっともな疑問を口にするブルルン。どうやらブルルンも知らないようだ。
「えっとね……こんな風に左右に身体を揺らして小さな波を起こすの!」
「……なんとなく分かったブル。行くブルよー! ブルブルー!」
なにやらブルブルとやらが始まったようだが、良くわからないな……
「結局、ブルブルって何なんだ?」
俺と同じ疑問を当然のように抱いたであろう雅樹が、そんな声を投げかける。
「う、うーん……。ブルルンが泳……いでるわけじゃないわね……。これは……その場に留まって左右に揺れている……?」
「ブルルンを抱きかかえたまま仰向けに近い態勢のセラちゃんも一緒に、ブルルンの動きに合わせて左右に揺れていますね。……まあ、ブルブルしていると言えばそんな気も……?」
「そうね。たしかにブルブルしているわね。ブルルンもセラも」
「でも、誰か来たら止めておきましょうか。隠蔽されている状態だと、どのように見えるのかわかりませんし」
「そうね……。セラが妙な動きをしているように見える気がするわ……。これ」
かりんと舞奈が説明するようにそんな事を話してくるが、いまいち良く分からない。
目の前で見ているふたりでも、そんな感じなのか……と思っていると、
「尻尾が左右にブルブル揺れてて良い感じー!」
というセラの声が聞こえてきた。
……そういえば、セラがブルルンが浮遊移動したりする時に尻尾が左右に揺れてると、楽しそうな表情でそれを見ている時があったな……。揺れているのが面白いとかなんとか……
もしかして、湯船でそれ――高速でしっぽが揺れるのを、自分が揺れながら見たかった……?
……うん、駄目だな。やっぱり良く分からない。
「なかなか面白かったよー! それじゃあ、お礼にブルブルブルするよー!」
「ブルブルブルとは何ブル? どうしてブルルンのお腹に手を当てて上に向けるブル……?」
「それはね……こうしてムギュっと、ブルブルブルー!」
「ほわぁぁっ! 身体がムギュムギュするブルーッ! でもなんだか温泉の熱が一杯伝わってきて、気分が良くなってくるブルゥ! ほわほわほわブルゥゥゥ……!」
……ブルブルに、更にブルがひとつ追加された何かが行われているようだ。
ま……正直なんだか良く分からないが、セラが楽しいならそれでいいか。
長くなった為に区切った後半部分です。
それもあって、今回は単に温泉で(主にセラとブルルンが)戯れる回となりました……
もうちょっとあったのですが、流石に長くなりすぎるので短くしました。
ただ……その影響でなんだか何をやっているのか良く分からない感が…… orz
ま、まあ、そんなこんなでまた次回!
次の更新は平時通りとなりまして、8月11日(木)の予定です!




