第15話 ブルブル
「……ところで、使い魔とはいえヌイグルミだよな? 風呂入ったら駄目じゃねぇか?」
「完全防水の防護膜とやらがあるから問題ないらしいわよ」
雅樹の疑問に対し、俺やブルルンが説明するよりも先に、かりんがそんな風に答えた。
「もっとも……ヌイグルミが動いているのを見られると、それはそれで問題だから、しっかり隠蔽しておかないと駄目だけどな」
「つまり……ご主人と入る必要があるブル?」
「ま、そういう事だな。……とはいえ、俺も入りたい気分だから、一度部屋に戻ってから行くとするか」
「やったーブル! 早速行くブルよ!」
そう言いながら、身体を伸縮させながら左右に振って喜びを表現するブルルン。
……なんだかバネみたいな動きだな……
なんて思っていると、
「ん、なら私も入るー! ブルルンを大きいお風呂でブルブルしたい!」
そんな事を言って、両手で何かを圧縮するかのようなジェスチャーをするセラ。
……ブルブルってなんだ……?
「いや、ブルブルが何なのか良く分からないが、それをするのは無理だぞ……」
「え?」
「今言った通り、ブルルンを隠蔽しておかないといけないわけなんだが……隠蔽の魔法は俺から離れると自動的に解除されてしまうからな。さすがに男湯と女湯では距離がありすぎる」
「そ、そんなぁー……。せっかく、ブルブル出来ると思ったのに……」
俺の説明を聞き、崩れ落ちるように畳に手を付くセラ。
「まあ……何か良い方法があるかもしれないから考えては見るが……今日の所は、諦めてくれ」
「むむぅ、残念……。でも……トー兄様なら、きっと明日には出来るようになっているよね!」
「……考えはするが、過度な期待はしないでくれ。俺にも出来ない事はある」
セラのキラキラと輝く期待のこもった目に「うっ」となりつつ、そう返す俺。
……いくらなんでも、俺の事を過剰評価しすぎではなかろうか……
もっとも、そんな風に言われたら、なんとかしたくなるというものだが……
上手く隠蔽の魔法を届かせるような方法なんぞ思いつかないな……
……ま、とりあえず温泉――大浴場に行ってみるとするか。
◆
というわけで……やってきた大浴場は、なかなかの広さだった。
「紘都が先に入っているって事はなさそうだな」
「そうだな。というか、脱衣所にも俺たち以外いなかったし、使われているカゴもなかったから、誰もいないんじゃないか?」
大浴場内を見回しながら言ってくる雅樹にそう返す俺。
「たしかにな。これならブルルンの隠蔽もいらないんじゃないか?」
「ま、誰か入ってくるまでは必要ないな」
そんな風に言いながらブルルンの方を見ると、ブルルンは、
「ブルッブルー! 掛け湯もバッチリブル!」
と言いながら、お湯の入った桶を浮かせて自身にバシャバシャとかけていた。
そんなブルルンに続くようにして、俺と雅樹が掛け湯をしていると、
「ブルン? ご主人、向こうに『露天風呂入口』って書いてあるブルよ」
なんて事を前足で入口の方向を示しながら言ってくるブルルン。
そちらへと顔を向けてみると、たしかにそう書かれたドアがあった。
「露天風呂か……。せっかくだから行ってみっか?」
という雅樹の提案に対してブルルンと俺は、
「そうブルね。露天風呂がどういうものか気になるブル」
「そうだな。どうせ入るなら、まずはそっちから入ってみたい所だな」
と、そう答えて早速露天風呂の方へと向かう。
「ブルルー! 凄いブル! とてもとても和な雰囲気で、侘び寂びが感じられるブルーッ!」
木製の壁と漆喰の壁に囲まれた、日本庭園のような造りになっている露天風呂に対し、そんな感想を口にするブルルン。
……その言葉、意味を理解して使っているのだろうか……?
なんて事を思いつつも、湯に浸かる俺。
ふぅ……。やはり温泉はいいな……
俺がそんな風に思った所で、低空飛行からバシャンという音と共に湯船に浸かった……というか、顔を上に向けて着水したブルルンが、とても気持ちよさそうな表情で、
「うーあー……、最高ブルゥゥゥ……!」
と、そんな声を上げた。
「……本当に温泉に入って問題ない上に、温泉の気分の良さまでわかるんだな……」
「まあ……一応、ブルルンには『知覚』を与える魔法を使っているからな……。ここまでとは思わなかったが」
雅樹の呟きにそう返した所で、湯船の壁越しに、
「あれー? トー兄様たちの声がするよー?」
という、セラの声が聞こえてきた。
……ん?
もしかして……この壁一枚隔てた向こう側は、女湯の露天風呂……なのか?
前の話に続き、妙なサブタイトルに……
温泉タイム、思ったよりも長くなってしまったので、ふたつに分割する事にしました。
なので、後半部分は明日(8月8日(月))に更新予定です! 明日です!




