第13話 抑え込む力
ひとつの方法を思いついた俺は、即座にブルルンに呼びかける。
「ブルルン! セラ……は、さすがに厳しいか。雅樹を連れてきてくれ!」
俺のその言葉に、ブルルンは「了解ブル!」と返しつつ勢いよく部屋の外へと飛んでいき、そしてすぐに雅樹を連れて戻ってきた。
「空飛ぶヌイグルミに呼ばれたから来てみたが……な、なんだこりゃ……っ!?」
「ニガサヌ……! ニガサヌゾォ……! ミズカラ、シゴクノ……ラセンニ……オチシ、オロカナル、ムスメ! イマイチド……ワレラガ、ヨミノ……メイアンニ、オチヨ! ソシテ……トコシエニ……シノヤマヲ、キズケ! チノカワニ、シズメ! キズケシズメ! キズケシズメ! キズケシズメェェェェェッ!」
「咲彩の声……なわけねぇな!? なんだこいつ! なにがどうなってやがる!?」
咲彩の口から発せられる声を聞いた雅樹が、当然とも言うべき反応をする。
「それは呪いの元凶と思しき怨霊の分け身のせいだ。そいつが、こちらの術式を発動させまいとして、咲彩の肉体を操る形で妨害してきているんだ」
「マジかよ! ……つーか、もしかして俺を呼んだのは、その怨霊に操られている咲彩を抑え込めって事か?」
俺の説明を聞いた雅樹が、驚きつつもそう問いかけてくる。
随分と理解が早いな。いや……この状況を見れば、そうとしか思わないか。
と、俺はそんな風に考えながら、
「ああ、その通りだ。これを手にはめて暴れる咲彩の身体を抑えつけてくれ! はめれば腕全体に魔法の効果がおよぶ。手だけでどうにかする必要はないぞ!」
そう改めて告げて、以前作った『かりんの手がタッチパネルに反応するようになる軍手』を雅樹に放り投げた。
軍手をキャッチすると、それ以上の説明は不要だとばかりに、
「よっしゃ、任せろ!」
と言い放って即座にそれを手にはめて咲彩へと駆け寄る雅樹。
そして、咲彩に覆いかぶさるような形で、だけではなく腕全体を使うようにして、暴れるその身体を抑え込み始める雅樹。
この軍手は、元々擬似的に指と同じ性質を持たせたものだが、その性質を持たせるために、霊体の波動と生命の波動……とでもいうべき物を反転させている。
なので、生命の波動を持つ者――肉体を有する者がはめると、霊体に触れる事が可能になる、というわけだ。
そして……その効果は抜群で、咲彩を操る怨霊が雅樹によって抑え込まれる形となり、うねりにうねっていた呪符の鎖が瞬く間に動きを止めた。
「はぁ……はぁ……。これなら……なんとか……なりそうだわ……」
肩で息をしながら、そんな風にかりんが発してから、おおよそ1分後……生成され続けていた魔法陣が遂に先端に到達。
今までの魔法陣よりもふたまわり近く大きな十二角形の魔法陣が生成され、それと同時に全ての魔法陣が金色に輝き始める。
「オノレ……オノレ……オノレ……! ジャマヲ……スル……ナァァァァァ!」
怨霊の分け身に操られた咲彩が、雅樹を憤怒の形相で睨み、吠える。
しかし、雅樹がそんな事に怯むはずもなく、睨み返し、そして叫ぶ。
「邪魔なのはてめぇだっ! 咲彩の身体を勝手に使うんじゃねぇぇっ!」
「かりん! 降魔符を十二角形の魔法陣の2、4、6、8、10、12時の所に!」
「ろ、6ヶ所!? 1ヶ所でもキツいってのに6ケ所とか……なかなか無茶な事言うわねぇ……っ! ホントッ!」
俺の言葉に対し、少し怒気を孕みながらそんな事を叫ぶかりん。
しかし、無茶と言いつつもしっかりと6枚の降魔符を放り投げ、十二角形の魔法陣の俺が指定した所へと貼り付けたのは、さすがとしか言いようがない。
「ナイスブル!」
「ああ! さすがだ!」
俺はブルルンに続く形でかりんに称賛の言葉を投げかけると同時に、手元の魔法陣に魔力を流し込む。
「――そして、これで……完成だ!」
そう俺が言い放った直後、降魔符が赤い光を発した。
それとほぼ同時に、咲彩の心臓付近から紫色の煙のようなものが一気に噴き出し、そして霧散していく。
そのままそれを眺めていると、10秒もしないうちに噴出は収まり、それと同時に呪符の鎖も魔法陣も、全て消滅した。
いや、消滅っていうと失敗したみたいだな。咲彩の中に吸い込まれた……というべきか。
「終わった……のか?」
叫び声ひとつないまま急に静かになったせいで、実感が湧いていないのであろう雅樹が、そんな事を呟いた。
なので、俺は雅樹に対してこう告げる事にした。
「ああ。雅樹が抑え込んでくれたお陰で、呪詛遮断の魔法は全て上手く定着した。これで呪いの影響も、怨霊の干渉も、ほぼ問題なくなったぞ」
と。
この後の展開まで既にあるのですが、ちょっと長くなってしまったので一度区切りました……
そんなわけで次の更新は平時よりも1日早くなりまして、明後日8月5日(金)を予定しています!
(明日……と思ったのですが、予定が詰まっていて少々厳しいので明後日になります……)
余談
カタカナの所、元の漢字が分かりづらい所があるので補足的な物を記載しておきます。
シゴク=死獄
ラセン=螺旋
オチ=堕ち
ヨミ=黄泉
メイアン=冥闇
トコシエ=永久
シノヤマ=屍之山
チノカワ=血之河




