第12話 内より現れしもの
「よし、それじゃあ早速開始するぞ」
俺はそう宣言し、魔法陣を展開。
ブルルンにも指示を出して、魔力の流れを調整して貰う。
「なんだか、舞奈を蘇生させた――というと少し語弊があるけど――あの時と似たような感じね。魔法陣の雰囲気とかは違うけど」
「生命や魂に『干渉する』という意味では同じブルからねぇ。術式の構成もある程度は似通ったものになるものブルよ」
「ふぅん……なるほどね。そう言われるとなんとなく納得出来るというものだわ」
かりんとブルルンがそんな会話をしている間にも、順調に術式は構築されていき……遂に術式の一端が『魂に穿たれた楔のようなもの』を捉えた。
「ブルルン、いいぞ!」
「了解ブルゥ!」
俺の呼びかけに、ブルルンはそう返事をしつつ咲彩へと接近。
「かりん! 今から印を付けるブルよ! そこを狙うブル!」
という言葉を投げかけると共に、咲彩の心臓の少し下辺りを、ぬいぐるみらしい丸みを帯びた短い前足でタッチするブルルン。
するとその直後、タッチした部分に青い光点が出現。それと同時にかりんが、
「任せなさい! これなら外さないわっ!」
なんて事を言い放ちながら、幾つも繋ぎ合わせる事で、まるで鎖のような形状となっている呪符の束……その先端を、青い光点に向けて飛ばした。
そして、呪符の鎖はそのまま吸い込まれるように青い光点に到達し……
「貼り付いたわよ!」
と、俺とブルルン対して告げてくるかりん。
「繋ぐブル!」
ブルルンがそう言い放って呪符の周囲を一回転すると、魔法陣から呪符へと魔力が流れ、呪符が先程の光点と同じ青い光に包まれ始める。
「よし! 繋がった!」
俺は即座に待機させてあった魔法を発動。
それがキーとなってかりんの手元から呪符の鎖の先端へと向かって、小さな八角形の魔法陣が次々に生成されていく。
……が、そこで唐突に黒い靄のような物が呪符の鎖に纏わりつき始め、呪符の鎖が激しくうねりだした。
――いや、咲彩の身体が暴れだした……と言うべきか。……何だ?
「ぐぅっ……!? きゅ、急に何……っ!?」
かりんが慌てたようにそう口にした直後、
「サ……セ……ヌ……」
というくぐもった声が、咲彩の口から発せられた。
痙攣と海老反りを繰り返すかのような、奇怪な動きで激しく暴れる咲彩のその目は赤く光っており、『何か』に操られているであろう事は明白だった。
……まさか、呪いだけじゃなくて、怨霊の類が憑依していた……?
「邪悪な霊の分け身が表面に出てきたブル!? ちょ、ちょっとまずいブル……!」
ブルルンが慌てた様子でそんな風に言う。
……たしかにこれは想定外だ……
いや、セラが黒い影が繋がっていたと言っていた時点で、この可能性を想定しておくべきだったか。
「サセヌサセヌサセヌ……! ヤメロヤメロヤメロォォォ!」
「かりん! なんとか抑え込むブル!」
「む、無茶言うわね……っ! というか……なんとか抑える事は出来るかもしれないけど……この状態じゃ、降魔符を使うのは……厳しいわよ……っ!」
ブルルンの言葉に、焦りの声でそう返すかりん。
このままだとまずそうだな……
普通の攻撃魔法は、咲彩の肉体にダメージを与えてしまうから当然使えない……
ならば、相手の魔力や霊力を減衰させるタイプの攻撃魔法であれば……?
いや、それも咲彩の精神や魂にダメージを与える可能性があるか……
ならばいっそ、今からアレに対抗する術式を追加で組み込むか……?
突如として現れた怨霊の分け身をどうにかすべく、術式を追加――改良出来ないかと思考を巡らせる俺。
対抗する術式を組み込む事、それ自体は問題ない。
だが、どれだけ考えても安全かつ確実にそれが出来るようには思えなかった。
途中で術式を改良するのはハイリスクすぎるのだ。
「こ……のぉ……っ! 出てくるんじゃない……わよっ!」
かりんがどうにか抑え込もうとしているが、なかなか厳しそうだ。
……術式が破られては元も子もない。危険を承知でやるしかない……か?
いや……待てよ? 抑え込む……?
……怨霊を引き剥がしたり消し飛ばしたりするんじゃなくて、とりあえず、今の術式が完全に発動するまでの間、邪魔されないようにすれば……。そう、単純にその動きを抑え込むのであれば、安全にいけるんじゃないか?
だが、それをする為には霊体に接触する必要があ――
そこまで考えた所で、俺の脳裏に、以前かりんが駅のタッチパネルに触れても反応しなかった時の出来事がよぎった。
……そうか! あれを使えば霊体に接触する事が出来る!
そして、そのまま抑え込む事も可能なはずだ!
SCROLL1の駅のワンシーンが、ここにきて繋がるという……
といった所で、また次回!
次の更新は平時通りの間隔となりまして、8月3日(水)を予定しています!




