第16話 矢の技と紘都
俺がちょっと心配になりながら舞奈の方を見ると、
「す、凄いを通り越して、どんでもない物を見た気がします……」
と、心底驚いたと言わんばかりの表情でそんな風に言ってくる舞奈。
お、少なくとも舞奈にとっては、良い方の驚きだったみたいだな。
……って事は、上手くいった感じか? なんて思っていると、
「今、矢が少し曲がっていたような……?」
「軽い弓であれば、曲げて飛ばす事が出来るという話は聞いた事があるけど……」
「和弓って軽くはないよね……?」
などと口々に言い始める弓道部員たち。
あ、あー……矢の軌道を曲げたのがまずかったのか……
「ふーむ……なるほど、たしかに実戦的な弓の技術だな。弓道とは全く違うが、これはこれで興味深い」
関心してそう言ってくる千堂部長。
……やり方を教えてくれと言われても教えられないぞ……
というわけで俺は、深く突っ込んで聞かれるよりも先に話題を変えるべく、
「いやいや、洗練さの欠片もない荒っぽいだけの技ですよ。むしろ俺としては、弓道の射方というものに興味がありますね」
と言った。実際、興味があるのは本当だ。
「ふむ、なるほど。そうか……それであれば……紘――守谷、折角だからお前がお手本を見せてやったらどうだ」
千堂部長がそう言いながら紘都の方をへと顔を向けた。
ふむ……今、一瞬紘都と言おうとしたが、名字で言い直したな。
部長と部員が古馴染みだからといって、特別扱いしているわけではない。……というのを示す為、といった所か。
「あ、いいねっ。紘都兄ぃの動作、凄くかっこいいし! 兄さんよりも!」
「お、おお……そう……だな……」
璃紗――妹に自分よりかっこいいと言われた千堂部長が、ちょっと凹んでいる。
他の弓道部員は苦笑いだ。
にしても、こっちは普通に紘都兄ぃとか言っているな。
しかも、なんかちょっと目が輝いているし。
「そ、そこまでかっこよくはないと思うけど……まあ、折角だし披露しようかな」
紘都は恥ずかしそうに頬を掻きながらそう口にすると、弓と矢を手にし、俺と入れ替わるようにして射位に立って、足を開いた。
そこから流れるように、洗練された動作で狙いを定める所へと進めていく紘都。
そして……練られた気の流れが、丹田に集った所で発射。
その矢を射る姿勢も素晴らしい。
しかも、紘都はそこで気を霧散させずに姿勢と共に維持し続ける。
ほう……。矢を放った後もなお、気を残し続けるとは恐れ入った。
なるほどなるほど、これが弓道の『作法』というものか。
これならば、一撃必殺に全てを賭けた強力な一矢を放ちつつも、精神の集中を解かずにおく事で、新たな敵が不意に現れたりした場合でも、すぐに二射目での対処が可能になる……というものだ。うーん、実に素晴らしい『作法』だな。
「……何故だかわからないが、成伯が何かを誤解しているように感じるな……」
なんて事を千堂部長が呟くように言う。
横に立つ璃紗もそれに同意らしく、首を縦に振っている。
――はて? 何を誤解しているというのだろうか? よくわからんな。
魔王との争いを繰り広げたファンタジー世界の人間はそういう思考になるという事ですね。
という所で、次の話へ! 本日もまだ更新しますよ!




