第3話 寝ている少女
少し長めです。
「どうかしたのか? ……って」
雅樹のもとに駆け寄りながらそう声をかけ、そこで気づく。
雅樹の視線の先――山の中へと続いていると思われる細い道、その入口となっている階段の脇にある大きな木に、もたれかかるようにして寝ている少女の姿に。
ヤバいものではないが、理解不能な状況ではあるな。
学校の制服と思しき格好をしている上に、妙に土や砂の類で汚れているような感じなので、部活動か何かの途中なのだろうか?
あるいは、その帰りなのかもしれない。
「……どうして、こんな所で寝ているんだ?」
「わからん……。起こそうとしてみたんだけど、何をしても全然起きそうにねぇんだよ……。どうすりゃいいんだって感じだ……」
俺の問いかけに対し、頭を振ってそう返してくる雅樹。
なるほどな……。さっき焦った感じだったのは、まったく起きそうになくて途方にくれたからってわけか。
もしかしたら……と、起こすフリをして、そーっと睡眠魔法を解除する魔法を使ってみるが、特に反応はなかった。
一瞬、解除されない限り強制的に睡眠状態を維持するという魔法の類が使われているのではないかと思ったのだが……まあ、向こうの世界ならともかく、こっちの世界でその類の睡眠魔法が使われているわけないか。
「たしかに、まったく起きそうにないな」
「ふむ……。念の為、一通り確認するよ」
俺の言葉を聞いた亜里沙が、俺と交代するようにして寝ている少女を調べ始めた。
そして、一通り確認し終えた所で、雅樹の方を見て言葉を投げかける。
「うーん……。たしかにこれは単に寝ているだけだね。突いたりすると反応はあるのに、全然起きる気配がないという点が謎だけど……。――緋村、ここで何があったのか話してくれるかな?」
「それが、正直俺にもさっぱりわからねぇんだ……。俺がここを通りかかった時に木の下に人影が見えたんで、よく見てみたら……咲彩だったんだよ。で、なんでここで寝てんだって思いながらも起こそうとしたんだが……さっき言った通り全然起きそうになくてよ……それで、みんなを呼んだってわけだ」
「ん? 咲彩? 名前を知ってるって事は……もしかして、この子が例の食堂の?」
鈴花が雅樹が少女の名を口にした事に疑問を持ち、そう問いかけると、
「あ、ああ、その通りだ。しばらく顔を合わせていねぇとはいえ、さすがに見間違えようがねぇ」
と言いながら、少女――咲彩の方を見る雅樹。
「うーん……よくわからないけど、このままここで寝かせておくわけにはいかないよね?」
「だね。とりあえず旅館へ連れて行くのがいいんじゃないかな? 雅樹――」
鈴花に対し、紘都がそう返事をしながら雅樹の方を見る。
そして、そこまで言われた所で雅樹はその先の言葉を聞くよりも先に、
「あ、ああ、そうだな! わかった。俺が運ぶぜ」
と返して即座に咲彩を背負った。
……さっきからセラが一言も発さずに、じーっと咲彩と階段の先――山の中へと続く細い道を交互に見ているだけなのが気になるが……まあ、今は後回しだな。
◆
というわけで、咲彩を発見した場所からさほど離れていない場所にある旅館に辿り着いた俺たちは、咲彩の事を旅館の人に話した。
何やら妙に驚かれた上に、警察までやって来たようだが……なんだ?
良く分からないが、とりあえず現時点で俺に出来る事はそれ以上なかったので、案内された部屋に荷物を置き、さてどうしようか……と思っていると、亜里沙にちょっと来て欲しいと言われた。
そして、そのまま旅館の中庭の一角にやってきた俺と亜里沙。
……だけではなく、舞奈とかりんもその場にいたりする。
途中で出会ったとかではなく、わざわざ呼んできた感じだ。
つまり……ちょっとキナ臭い話というわけだな。
そう思いながら、一応誰かに見られないように、そして聞かれないように、隠蔽の魔法を使っておく俺。
「この4人で集まったという事は……何か『特殊な状況』なのですか?」
舞奈が『特殊な状況』の部分を強調しながらそう問いかけ、それにかりんが続く。
「そういえば、警察が来ていたわね」
それに対して、
「ああ、なんでもあの咲彩という娘、『失踪』していたらしいよ」
なんて情報をサラッと口にしてくる亜里沙。
それを聞いたかりんが、
「失踪……? 家出って事?」
と、首を傾げながら問う。
「いや、文字通りの『失踪』だね。――3日前、学校から『急に姿が消えた』らしい」
「急に……ですか? それはこう……神隠し的な感じで……という事ですか?」
「うん、そういう事になるね。直前まで友達たちと一緒に『何か』をしていたのを複数の生徒に目撃されているのだけど……その少し後にそこを訪れた生徒からは、『鞄などを残したまま、友達たちも含めていなくなっていた』という情報しか得られなかったそうだよ」
舞奈の問いに頷き、そう答える亜里沙。
「誰かが転移魔法を使って誘拐した……のか? いや、睡眠魔法を解除する魔法でも目覚めなかった事を考えると、魔法の類ではないか……」
俺がそんな風に呟くと、
「そうそうめったやたらに魔法が使われても困るのだけど……でも、状況的には魔法や術、あるいはそれに類する特殊な力が使われている可能性は、正直言って高そうな感じだね」
なんて事を、亜里沙が言ってきた。
「なるほど……たしかにそうですね。――ところで、この情報はどうやって得たのですか?」
「ああ、これは『上からのちょっとした要請』で得た情報だよ。ここにいる者以外には、まあ……警察から直接得た情報であると言わずに、上手く誤魔化しながら話すようにしてくれるかい」
舞奈のもっともな問いかけに、亜里沙がそう答える。
……警察がそう簡単に部外者に話すわけないと思ったが、そういうわけか。
しかし……魔法や術、あるいはそれに類する特殊な力、か。
なんというか、いきなり厄介な事になってきたな……
旅館に運ぶ所で区切るか迷ったのですが、なんだか内容的にも長さ的にも中途半端な感じがしたので、ここまで進めてみました(結果、逆にちょっと長くなりました……)
といった所でまた次回! 次の更新は平時通りとなりまして、7月12日(火)を予定しています!




