第15話 エンチャントアロー
「では、矢筒も借りますね」
「ん? ああ」
俺の言葉に、一瞬、不思議そうな表情を見せつつ、矢筒を手渡してくる千堂部長。
……はて? 本来は1本ごとに矢を取りに行く作法とかなのだろうか?
まあ……作法は気にするなという事だったし、とりあえず使おう。
というわけで、矢筒をベルトに括りつけ……るフリをして、魔法で浮かせておく。
この方が扱いやすいんだよなぁ、俺は。落っこちる心配もないし。
「それじゃあ、っと」
俺は射位と呼ばれる地点へ移動すると、弓を構え、矢へのエンチャントを実行。
この方法も久しぶりだが、案外、身体が覚えているもんだな。
「なんだか……雰囲気――いえ、空気が変わったような気がしますね……」
「ふむ、そこに気づくとは……月城も武の才があるようだな」
「……いえ、それはないと思います。私、あまり運動神経良くないですし。単に趣味で多くの古武術を見てきたので、こういう空気の変わる感覚に慣れている――見慣れているから、というそれだけの事かと」
そんな舞奈と千堂部長の会話を聞きながら、精神を集中する俺。
……自身への加速魔法発動完了。エンチャントも連続発動準備も……よし、と。
――さあ、一気にいくとしよう。
「はっ!」
掛け声と共に、エンチャントした矢を放つ。
ある程度ではあるものの、自動で標的へ向かって、軌道を調整する性質が付与されたそれは、的へと吸い込まれるように飛翔。
タンッ、という音と共に、ど真ん中に命中する。
「おおーっ!」
「やるね!」
「凄いです!」
という璃紗、紘都、舞奈からの称賛の声。
手放しで褒められると、なんだかこそばゆいな。
だが……ここからが本番だ。ここで気を抜くわけにはいかない。
俺は矢筒から素早く矢を引き抜き、番え、エンチャントして射る。
素早く矢を引き抜き、番え、エンチャントして射る。
素早く矢を――
とまあ、そんな感じで立て続けに矢を放っていった俺は、エンチャントの軌道調整に助けられつつも、全ての的のど真ん中に、1発で矢を命中させる事に成功した。
「ふぅ……。どうにかなったな。思ったよりも腕が鈍っていなくて良かったというべきか」
俺は呟くようにそう口にし、安堵のため息を漏らす。
しかしそんな安堵する俺とは違い、皆は何故か、驚愕や困惑への表情を浮かべていた。
……そんなに変な動きだったのだろうか?
あー、まあ、作法を無視しているからなぁ……。もしかしたら凄い無作法なやり方だったのかもしれない。
でもまあ……とりあえず舞奈に不甲斐ないものを見せずに済んだはずだ。
……そうであると思いたい。
最後だけ投稿直前に気になった部分があった為、直していたら少し遅くなりました……
さて、明日も数話分連続で行くと思いますので、よろしくお願いします!




