第6話 生み出されたホムンクルス
若干長めです。
――4日後……
「す、凄いですね……。完全に同じ姿で作られています……」
という舞奈の感嘆の声に対して桜満が、培養槽を維持し、管理する装置のモニタに映し出されている写真へと視線を向けながら、
「ま、あれだけバッチリ写っている写真があれば、そりゃね」
と、そんな風に言い、再び培養槽へと視線を戻す。
「それで? 最後の仕上げとなる魔法とやらの準備の方だけど……本当にこれでバッチリなの? なんだか、私の符術が組み込んであるせいで、こう……和洋折衷というか、凄く妙な感じになってるけど……」
培養槽を囲むように存在する多数の魔法陣を指さしながら、そんな風に問いかけてくるかりん。
たしかに、大小いくつもの魔法陣が連結され、組み合わさる事で巨大なひとつの術式となっているそれは、符術をベースとした四角い陣と、魔法をベースとした丸い陣が複雑に絡んでいる事もあり、一見すると日本風なのか、それとも向こうの世界風なのか良くわからない――こちらの世界風に言うなら、和風とファンタジーの融合した奇妙な――そんな構造だ。
そういう意味では、かりんの言った『和洋折衷』という言葉も、ある意味正しいな。
俺は魔法陣群を眺めながらそんな事を思いつつ、
「ああ。見ての通り魔法陣は全て展開してある。あとは、セラがその紫色の魔法陣に手を触れればオッケーだぞ」
とかりんに返し、セラの方を見る。
ちなみに『セラフィーナ』だと長い事もあり、皆『セラ』と呼ぶようになっていた。
「……えっと……痛く……ない?」
心配そうに尋ねてくるセラ。
しかし、そう言われてもわからないので、
「あー……すまん。正直言って、それは俺にもわからん……。月城――舞奈に使った魔法をベースに更に色々補完したものだから、その辺はそれと同じなはずだが……あの時、舞奈は意識がなかったしなぁ……」
と、正直に俺が告げると、それに続くようにして舞奈が言葉を紡ぐ。
「そうですね……。私も痛かったかどうかは謎です。刺された時の痛みくらいしか覚えていませんし……」
「……そ、そうなんだ……。ちょ、ちょっと怖い……。――で、でも……これをすればアイスやケーキが食べられる……。う、うう……」
俺と舞奈の発言を聞き、何やら葛藤し始めるセラ。
「ふむ……」
と呟き、俺はアイス生成魔法を使ってアイスを生み出し、それを近くの机に置いた。
そして、「とりあえずアイスは用意しておくぞ」と、告げる。
……我ながら雑な釣り方だと思うが、他に手が思いつかないので仕方がない。
「う、うう……っ! た、食べたい……っ!」
セラはアイスを見ながらプルプルと震えながらそんな事を口にした後、クルリと魔法陣の方を向き……
「え、ええーいぃっ!」
という掛け声と共に、勢いよく手を伸ばした。
「発動……ブルッ!」
というブルルンの声と共に、セラの全身が光に包まれ……
「いっ……ぎゃぁぁぁぁぁっ!?」
という悲鳴を残しながら、魔法陣へと吸い込まれていった。
……あ、この魔法陣って痛いのか……。
「だ、大丈夫……なのよね?」
「ああ。すぐにわかる」
心配そうなかりんにそう告げた直後、今度は培養槽の中のセラの身体が光に包まれた。
そして、その光が収まると……セラ――のホムンクルス体――の瞼が開き……慌てふためき始めた。……というか溺れかけていた。
……あ、しまった。『酸素を含まない普通の液体』だからそうなるよな……
「はっ!」
急いで魔法で氷のハンマーを生成すると、それを叩きつけてガラスを破壊。
中の液体を外へと一気に放出する俺。
そして、液体と共にセラも流されるようにして放り出されてきたので、それを受け止める。
「げ、げほっ、げほっ! ごほっ! い、いきなり溺れ死ぬかと思った……」
「すまん……。これが普通の液体である事を忘れていた……」
そう返す俺に対し、セラはジトッとした目を向けてきた後、
「あと……魔法陣に触れた瞬間、凄い痛かった……。もう一回死ぬかと思った……」
なんて事を言ってきた。……そ、そうなのか……
「そ、そこまで痛かったのか……。それはなんというか……悪かった……」
すまないと思いそう答えると、セラはしばしの沈黙の後、
「でも……でもね……。そんなの全然問題じゃない。……だって、ようやく……こうして触れられるようになったから……」
と、なんと表現すればいいのか分からない、色々な感情がごちゃまぜになった顔でそう口にし、そして言葉を続ける。
「その……。だから……。えっと……。あ……ありがとう……!」
あと1話、SCROLL2へ繋がる話が入って、SCROLL1.5は終了となります。
つまり……2話後からSCROLL2です!
そして、SCROLL1.5最後の話となる次の更新は、6月27日(月)を予定しています。
……が、6月末から~7月頭は少々色々ありまして、更新頻度が下がります……
とはいえ、どうにか7月頭にはSCROLL2を開始したいと考えています!
といった所で、また次回!
※追記
冒頭、『そして~』からだと微妙な感じがしたので、変更しました。
同じく、冒頭で状況(動作の)描写が不足していたので加筆しました。




