第142話 賢者の石と千堂の血
「魂の欠片を、こうも上手く制御出来るお前たちの方が、俺は驚きだがな。錬金術というのは金を生み出す術ではなかったのか?」
敢えてそんな風に言って肩をすくめてみせる俺。
「無論、本来の錬金術の目的は金を生み出す事だ。そして、その過程で必要だと考えられた物……それが『賢者の石』と呼ばれる物だ。そして――」
黒野沢が何やら錬金術の説明を始めたが、そこまで言った所で理解した俺は、
「――ああなるほど、『賢者の石』を生み出そうとした結果、魂の欠片を制御する術が生み出された……と、そういう事か」
と、言葉を被せて説明を遮った。
最後まで聞いても良かったんだが、この手の奴が、わざわざ意味もなくベラベラと話し出すとは思えないからな。
何か時間稼ぎをする必要が『ある』と考えるべきであり、それに乗っかってやる必要はない。
情報が得られたらそこで話を区切って、少しでも時間稼ぎにならないようにしてやるのが一番だ。
……とはいえ、千堂璃紗についての情報は聞いておきたい所ではあるな。
「……その通りだ。やれやれ、折角この校長である私自ら授業をしてやっているのだから、最後までしっかり話は聞いて欲しいものだな」
肩をすくめながらそんな事をのたまう黒野沢に対し、俺は腕を組みながら首を横に振り、
「……学校を実験場にし、生徒を巻き込むような奴に言われたくないな。……何故、お前は千堂璃紗をあのような状態にしたんだ?」
という問いの言葉を投げかけた。
こうすれば、時間稼ぎのためにも千堂璃紗について話すだろう。
「――あれは赤の力に魅入られながらも、異形から元の姿へと戻った稀有な存在だ。研究、そして実験に利用せぬ理由などなかろう?」
なんて事を平然と言ってのける黒野沢。
……俺が璃紗を異形化から元に戻した事がキッカケというわけか……
……だとすると、璃紗を捕らえたのはあれよりも後……?
「……随分と短時間で白骨化するんだな」
「それに関しては想定外という奴だ。魂を肉体から抜き取り、別の肉体に移した途端に、あの娘の本来の肉体が灰と化し、骨だけになったのだからな」
黒野沢はそう言って再び肩をすくめてみせた。
「想定外……?」
「そうだ。私自身、魂をあの大津原という偽りの肉体へと移していたが、元のこの肉体が灰化するなどという事はなかった。あの娘が特殊すぎたのだよ」
「…………」
……俺が異形化した状態から元に戻した時点で、肉体に何かの変化が生じていた……?
いや、そういう可能性を考えて検査を行っているのだから、それはない……か。
だとすると、千堂璃紗自身が特殊な体質を持っていた……という事か?
「千堂家は、かつて『赤き力』に起因する怪異を屠ってきたという記録がある。もしかしたら、その辺の『血』が何か影響したのかもしれぬが、私にもわからんな」
と、そんな事を言ってくる黒野沢。
血……か。たしかに血統に刻まれた情報――遺伝子……というんだったか? それが何らかの影響を及ぼしているというのは、可能性としては十分にあり得る話だ。
……なんにせよ、千堂璃紗の肉体をどうにかするとしたら、その辺も考えないと駄目そうだな……
……さて、わからないと言っているし、これ以上得られそうな情報はなさそうだ。
であれば、そろそろこいつの時間稼ぎを終わらせるか。
っと、そうだ。その前に魔法をひとつ打ち込んでおくか。念の為に……な。
錬金術と言ったらコレ! 的な代物(名称)の登場となりました。
とまあそんな所でまた次回!
なのですが……次の更新も申し訳ありません、前話から今話までの更新間隔と同じとなりまして……4月21日(木)を予定しています……




