第134話 徘徊する魔物たち
「なるほど、たしかに魔物っぽいというか……蜘蛛の下半身と女性の上半身……アラクネ……か?」
元廃工場に踏み込む前に、どんな異形がいるのか偵察してみようと思い、こっそりと侵入してみると、早速そんな異形が視界に入った。
当然、隠蔽魔法を使って隠れているので、向こうからこちらは見えない。
「アラ……クネ? 女郎蜘蛛じゃないの?」
そう首を傾げながら問いかけてくるかりんに、
「どっちでも良いと思うよ。伝承に記されている見た目に少し違いはあるけど、どちらも要は蜘蛛女である事に変わりはないしね」
と返す亜里沙。
「ヒュドラとヤマタノオロチみたいなものですね。どっちも首が多数ある竜ですし」
「それをひとくくりにするのは何か違う気がするわ……」
舞奈の発言に対し、ため息混じりにそう返事をするかりん。
たしかにその2体は明確に別物だな。なにしろ――
「まあ、ヒュドラは頭が9つ、ヤマタノオロチは頭が8つだしな。ケルベロスとオルトロスくらいの頭の数の差だ」
「オルトロス? タ――」
「――コじゃないよ? 双頭の犬の事だよ?」
舞奈が何かを言おうとしたが、亜里沙が被せるようにそんな風に言って続きの言葉を封じた。
……うんまあ、紫色のアレではないな。
「相変わらず知識が変な方向に寄っているわねぇ……」
かりんがやれやれと首を横に振りながらそう言った所で、去っていったアラクネもどきに代わり、別の異形が近づいてきた。
「今度は半魚人ね」
「あっちには犬の頭を持つ亜人……コボルトの姿も見えますね」
「千堂璃紗と違って随分と見た目が分かりやすいな……」
かりんと舞奈の言葉にそう返した所で、
「上にハーピーっぽいのまでいるよ」
と、亜里沙。
見ると、そこにはたしかに翼と鋭い爪を持つ女性型の魔物がいた。
「……なんとも多種多彩な事で……」
「でも……どうしてこう、いかにも『魔物です』と言わんばかりの姿形なんでしょうね?」
俺の呟きに続くようにして、もっともな疑問を口にする舞奈。
「それは謎だが……ホムンクルスの技術をもとに生み出された存在だと考えるのが、妥当な気がするな。ベースにないものを作るより、ベースのあるものを作る方が何でも楽だしな」
そう答えると、舞奈よりも先にかりんが頷き、
「あ、なるほど。神話とか伝説とか――要するに何かの資料を元にして生み出したってわけね」
と、そんな風に言ってきた。
そういえば、この世界の神話とか伝説に登場する魔物って、異世界から来た俺から見ても、どこかで見た事があるような姿形なのが、ちょっと不思議な感じだな。
神話や伝説で語られるような古の時代には、互いの世界を行き来する事が出来ていたりしたんだろうか?
なんて事を考えつつ、かりんに対して「そういう事だな」と返すと、俺はそのまま別の推測を口にする。
「まあ、どこぞの企業とやらが敢えてそういう風にしたのかもしれないが。こういう目に見てわかる亜人の方が、『企業』としては売りやすそうだし」
「なるほど……。たしかにそれなりの知識さえあれば、一目でどういう性質を持っているのかがすぐに分かりますね」
俺の推測を聞き、納得の表情でそう返してくる舞奈と、
「ま、こんなものが平然と売買されるようになったら洒落にならないし、とっとと潰すに限るけどね」
と、肩をすくめて言ってくる亜里沙。その亜里沙の言葉には同意だな。
「ああそうだな。……こいつらからは、かすかに『人』や『動物』であった残滓を感じる。どう考えてもベースとなっているのは――」
「――人間や動物。つまり、あの璃紗のように『変異させて生み出した』ってわけね……」
俺の言葉を引き継ぐように、そう告げるかりん。
「この技術が『企業』とやらに渡っていたら、大変な事になりますが……」
「……そこは何とも言えないね。それを含めて、ここを制圧して情報を引き出さないと。――だから、間違っても吹き飛ばしたりしないようにして欲しい」
亜里沙が舞奈に返答しつつ、俺の方を見てくる。
……うんまあ、その視線の意味する事はわかる。
前に拠点を吹き飛ばした事があるからな……
吹き飛ばせばすぐに終わりますが、さすがにそれでは意味がないので……
とまあ、そんなこんなでまた次回! 次の更新は、3月23日(水)を予定しています!




